大和の国のこころ、万葉のこころ

不肖私がこよなく愛する『万葉集』の鑑賞blogです。

大伴家持の歌

布勢の海の沖つ白波・・・巻第17-3991~3992

訓読 >>> 3991もののふの 八十伴(やそとも)の男(を)の 思ふどち 心(こころ)遣(や)らむと 馬(うま)並(な)めて うちくちぶりの 白波の 荒磯(ありそ)に寄する 渋谿(しぶたに)の 崎(さき)た廻(もとほ)り 松田江(まつだえ)の 長浜(なが…

高御座天の日継と・・・巻第18-4098~4100

訓読 >>> 4098高御座(たかみくら) 天(あま)の日継(ひつぎ)と 天(あめ)の下(した) 知らしめしける 皇祖(すめろき)の 神の命(みこと)の 畏(かしこ)くも 始めたまひて 貴(たふと)くも 定めたまへる み吉野の この大宮に あり通(がよ)ひ …

ゆくへなくありわたるとも霍公鳥・・・巻第18-4089~4092

訓読 >>> 4089高御座(たかみくら) 天(あま)の日継(ひつぎ)と 皇祖(すめろき)の 神の命(みこと)の 聞こし食(を)す 国のまほらに 山をしも さはに多みと 百鳥(ももとり)の 来居(きゐ)て鳴く声 春されば 聞きのかなしも いづれをか 別(わ)…

焼太刀を砺波の関に・・・巻第18-4085

訓読 >>> 焼太刀(やきたち)を砺波(となみ)の関(せき)に明日(あす)よりは守部(もりへ)遣(や)り添へ君を留(とど)めむ 要旨 >>> 焼いて鍛えた太刀、その太刀を研ぐという砺波の関に、明日からは番人を増やして、あなたにゆっくり留まってい…

大伴家持が菟原処女の墓の歌に追同した歌・・・巻第19-4211~4212

訓読 >>> 4211古(いにしへ)に ありけるわざの くすばしき 事と言ひ継(つ)ぐ 茅渟壮士(ちぬをとこ) 菟原壮士(うなひをとこ)の うつせみの 名を争ふと たまきはる 命(いのち)も捨てて 争ひに 妻問(つまど)ひしける 処女(をとめ)らが 聞けば悲…

春の日に張れる柳を取り持ちて・・・巻第19-4142

訓読 >>> 春の日に張れる柳(やなぎ)を取り持ちて見れば都の大道(おほち)し思ほゆ 要旨 >>> 春の日に、芽吹いてきた柳の小枝を折り取って眺めると、奈良の都の大路が思い起こされてならない。 鑑賞 >>> 天平勝宝2年(750年)の3月2日、大伴家持…

我が恋は千引の石を・・・巻第4-743

訓読 >>> 我(あ)が恋は千引(ちびき)の石(いし)を七(なな)ばかり首に懸(か)けむも神のまにまに 要旨 >>> 私の恋は、千人がかりで引く巨岩を七つも首にかけているほど苦しく重い。それも神の思し召しとあれば耐えなければならない。 鑑賞 >>…

夜のほどろ我が出でて来れば・・・巻第4-754

訓読 >>> 夜(よ)のほどろ我(わ)が出(い)でて来れば我妹子(わぎもこ)が思へりしくし面影(おもかげ)に見ゆ 要旨 >>> 夜がほのぼのと明けるころ、別れて私が出てくるとき、名残惜しそうにしていたあなたの姿が面影に見えてなりません。 鑑賞 >…

一本のなでしこ植ゑしその心・・・巻第18-4070~4072

訓読 >>> 4070一本(ひともと)のなでしこ植ゑしその心(こころ)誰(た)れに見せむと思ひそめけむ 4071しなざかる越(こし)の君らとかくしこそ柳(やなぎ)かづらき楽しく遊ばめ 4072ぬばたまの夜(よ)渡る月を幾夜(いくよ)経(ふ)と数(よ)みつ…

朝床に聞けば遥けし・・・巻第19-4150

訓読 >>> 朝床(あさとこ)に聞けば遥(はる)けし射水川(いみづがは)朝漕ぎしつつ唄(うた)ふ舟人 要旨 >>> うつらうつらとする朝床の中で耳を澄ますと、遙かな射水川を、朝漕ぎしながら唄う舟人の声が聞こえてくる。 鑑賞 >>> 大伴家持が越中…

石麻呂に我れ物申す・・・巻第16-3853~3854

訓読 >>> 3853石麻呂(いしまろ)に我(わ)れ物申す夏痩(なつや)せによしといふものぞ鰻(むなぎ)捕(と)り食(め)せ 3854痩(や)す痩すも生けらばあらむをはたやはた鰻(むなぎ)を捕ると川に流るな 要旨 >>> 〈3853〉石麻呂さんにあえて物申…

忘れ草我が下紐に付けたれど・・・巻第4-727~728

訓読 >>> 727忘れ草 我(わ)が下紐(したひも)に付けたれど醜(しこ)の醜草(しこくさ)言(こと)にしありけり 728人もなき国もあらぬか我妹子(わぎもこ)とたづさはり行きて副(たぐ)ひて居(を)らむ 要旨 >>> 〈727〉苦しみを忘れるために、…

妹も我れも心は同じ・・・巻第17-3978~3980

訓読 >>> 3978妹(いも)も我(あ)れも 心は同(おや)じ 比(たぐ)へれど いやなつかしく 相(あひ)見れば 常初花(とこはつはな)に 心ぐし めぐしもなしに はしけやし 我()が奥妻(おくづま) 大君(おほきみ)の 命(みこと)恐(かしこ)み あ…

木の暗の茂き峰の上を・・・巻第20-4305

訓読 >>> 木(こ)の暗(くれ)の茂(しげ)き峰(を)の上(へ)を霍公鳥(ほととぎす)鳴きて越ゆなり今し来(く)らしも 要旨 >>> 木々のうっそうと繁る峰の上を、ホトトギスが鳴きながら越えている。今にもこちらまでやって来そうだ。 鑑賞 >>>…

我が背子が捧げて持てるほほがしは・・・巻第19-4204~4205

訓読 >>> 4204我が背子(せこ)が捧(ささ)げて持てるほほがしはあたかも似るか青き蓋(きぬがさ) 4205皇祖(すめろき)の遠御代御代(とほみよみよ)はい布(し)き折り酒(き)飲みきといふぞこのほほがしは 要旨 >>> 〈4204〉あなた様が捧げ持っ…

床に臥い伏し痛けくの・・・巻第17-3969~3972

訓読 >>> 3969大君(おほきみ)の 任(ま)けのまにまに しなざかる 越(こし)を治(をさ)めに 出でて来(こ)し ますら我(われ)すら 世の中の 常(つね)しなければ うち靡(なび)き 床(とこ)に臥(こ)い伏(ふ)し 痛けくの 日に異(け)に増せ…

春の花今は盛りににほふらむ・・・巻第17-3965~3968

訓読 >>> 3965春の花今は盛(さか)りににほふらむ折りてかざさむ手力(たぢから)もがも 3966鴬(うぐひす)の鳴き散らすらむ春の花いつしか君と手折(たを)りかざさむ 3967山峽(やまがひ)に咲ける桜をただ一目君に見せてば何をか思はむ 3968鴬(うぐ…

荒し男すらに嘆き伏せらむ・・・巻第17-3962~3964

訓読 >>> 3962大君(おほきみ)の 任(ま)けのまにまに ますらをの 心振り起こし あしひきの 山坂(やまさか)越えて 天離(あまざか)る 鄙(ひな)に下(くだ)り来(き) 息(いき)だにも いまだ休めず 年月(としつき)も 幾(いく)らもあらぬに …

今更に妹に逢はめやと・・・巻第4-611~612

訓読 >>> 611今更(いまさら)に妹(いも)に逢はめやと思へかもここだわが胸いぶせくあるらむ 612なかなかに黙(もだ)もあらましを何すとか相(あひ)見そめけむ遂げざらまくに 要旨 >>> 〈611〉今はもう重ねてあなたに逢えないと思うからでしょうか…

庭に降る雪は千重敷く・・・巻第17-3960~3961

訓読 >>> 3960庭に降る雪は千重(ちへ)敷(し)くしかのみに思ひて君を我(あ)が待たなくに 3961白波の寄する礒廻(いそみ)を漕(こ)ぐ舟の楫(かぢ)取る間なく思ほえし君 要旨 >>> 〈3960〉庭に降る雪は幾重にも積もりました。けれども私は、そ…

馬並めていざ打ち行かな・・・巻第17-3953~3954

訓読 >>> 3953雁(かり)がねは使ひに来(こ)むと騒(さわ)くらむ秋風寒みその川の上(へ)に 3954馬(うま)並(な)めていざ打ち行かな渋谿(しぶたに)の清き礒廻(いそみ)に寄する波(なみ)見に 要旨 >>> 〈3953〉雁たちは都へ使いに行こうと…

橘のにほへる香かも・・・巻第17-3916~3921

訓読 >>> 3916橘(たちばな)のにほへる香(か)かも霍公鳥(ほととぎす)鳴く夜(よ)の雨にうつろひぬらむ 3917霍公鳥(ほととぎす)夜声(よごゑ)なつかし網(あみ)ささば花は過ぐとも離(か)れずか鳴かむ 3918橘(たちばな)のにほへる園(その)…

大伴家持と紀女郎の歌(6)・・・巻第8-1510

訓読 >>> なでしこは咲きて散りぬと人は言へど我(わ)が標(し)めし野の花にあらめやも 要旨 >>> なでしこは咲いて散ったと人は言いますが、私が標をした野のなでしこでしょうか、そんなはずはない。 鑑賞 >>> 大伴家持が、紀女郎に贈った歌。「…

大伴家持と紀女郎の歌(5)・・・巻第8-1460~1463

訓読 >>> 1460戯奴(わけ)がため我が手もすまに春の野に抜ける茅花(ちばな)そ食(を)して肥えませ 1461昼は咲き夜は恋ひ寝(ぬ)る合歓木(ねぶ)の花(はな)君のみ見めや戯奴(わけ)さへに見よ 1462我が君に戯奴(わけ)は恋ふらし賜(たば)りた…

大伴家持と紀女郎の歌(4)・・・巻第4-777~781

訓読 >>> 777我妹子(わぎもこ)がやどの籬(まがき)を見に行かばけだし門(かど)より帰してむかも 778うつたへに籬(まがき)の姿(すがた)見まく欲(ほ)り行かむと言へや君を見にこ 779板葺(いたぶき)の黒木(くろき)の屋根は山近し明日(あす)…

大伴家持と紀女郎の歌(3)・・・巻第4-775~776

訓読 >>> 775鶉(うづら)鳴く古(ふ)りにし郷(さと)ゆ思へどもなにそも妹(いも)に逢ふよしもなき 776言出(ことで)しは誰(た)が言(こと)なるか小山田(をやまだ)の苗代水(なわしろみづ)の中淀(なかよど)にして 要旨 >>> 〈775〉古さび…

大伴家持と紀女郎の歌(2)・・・巻第4-769

訓読 >>> ひさかたの雨の降る日をただひとり山辺(やまへ)に居(を)ればいぶせかりけり 要旨 >>> 雨が降る中、あなたのいない山裾でひとり過ごしていると、何とも心が晴れません。 鑑賞 >>> 大伴家持が紀女郎に答えて贈った歌とありますが、紀女…

宴席の歌(5)・・・巻第20-4488~4491

訓読 >>> 4488み雪降る冬は今日(けふ)のみ鴬(うぐひす)の鳴かむ春へは明日(あす)にしあるらし 4489うち靡(なび)く春を近みかぬばたまの今夜(こよひ)の月夜(つくよ)霞(かす)みたるらむ 4490あらたまの年行き返(がへ)り春立たばまづ我(わ…

大伴家持が、別れを悲しむ防人の気持ちを思いやって作った歌・・・巻第20-4331~4333

訓読 >>> 4331大君(おほきみ)の 遠(とほ)の朝廷(みかど)と しらぬひ 筑紫(つくし)の国は 賊(あた)守る おさへの城(き)ぞと 聞こし食(を)す 四方(よも)の国には 人(ひと)さはに 満ちてはあれど 鶏(とり)が鳴く 東男(あづまをのこ)は…

安積皇子が亡くなった時に大伴家持が作った歌(2)・・・巻第3-478~480

訓読 >>> 478かけまくも あやに畏(かしこ)し わが大君(おほきみ) 皇子(みこ)の命(みこと) もののふの 八十伴(やそとも)の男(を)を 召(め)し集(つど)へ 率(あども)ひたまひ 朝狩(あさがり)に 鹿猪(しし)踏み起こし 夕狩り(ゆふがり…