東歌
訓読 >>> 3358さ寝(ぬ)らくは玉の緒(を)ばかり恋ふらくは富士の高嶺(たかね)の鳴沢(なるさは)のごと 3359駿河(するが)の海おし辺(へ)に生(お)ふる浜つづら汝(いまし)を頼み母に違(たが)ひぬ [一云 親に違ひぬ] 3360伊豆(いづ)の海に…
訓読 >>> 3353麁玉(あらたま)の伎倍(きへ)の林に汝(な)を立てて行きかつましじ寐(い)を先立(さきだ)たね 3354伎倍人(きへひと)の斑衾(まだらぶすま)に綿(わた)さはだ入りなましもの妹(いも)が小床(をどこ)に 要旨 >>> 〈3353〉麁…
訓読 >>> 稲つけば皹(かか)る我(あ)が手を今夜(こよひ)もか殿(との)の若子(わくご)が取りて嘆かむ 要旨 >>> 稲をついて赤くひび割れた私の手を、今夜もまたお屋敷の若様がお取りになって、かわいそうにとお嘆きになるのでしょうか。 鑑賞 >…
訓読 >>> 恋(こひ)しけば来ませ我が背子(せこ)垣(かき)つ柳(やぎ)末(うれ)摘(つ)み枯らし我(わ)れ立ち待たむ 要旨 >>> 私が恋しいと言うのなら、いらして下さい、あなた。垣根の柳の枝先を枯れてしまうほど摘みながら、立ち続けてお待ち…
訓読 >>> 利根川(とねがは)の川瀬も知らず直(ただ)渡り波にあふのす逢へる君かも 要旨 >>> 利根川を渡る浅瀬の場所も分からないままむやみに渡り、だしぬけに波に遭ったように、思いがけずも逢っているあなたであるよ。 鑑賞 >>> 上野(かみつ…
訓読 >>> 上(かみ)つ毛野(けの)久路保(くろほ)の嶺(ね)ろの葛葉(くずは)がた愛(かな)しけ子らにいや離(ざか)り来(く)も 要旨 >>> 久路保の嶺の葛葉の蔓(つる)が別れて伸びていくように、愛しい妻といよいよ遠ざかって行くことだ。 …
訓読 >>> 多胡(たご)の嶺(ね)に寄(よ)せ綱(づな)延(は)へて寄すれどもあに来(く)やしづしその顔(かほ)よきに 要旨 >>> 多胡の嶺に綱をかけて引き寄せようとしても、ああ悔しい、びくともしない、その顔が美人ゆえに。 鑑賞 >>> 上野…
訓読 >>> 3436しらとほふ小新田山(をにひたやま)の守(も)る山のうら枯(が)れせなな常葉(とこは)にもがも 3437陸奥(みちのく)の安達太良(あだたら)真弓(まゆみ)はじき置きて反(せ)らしめきなば弦(つら)はかめかも 要旨 >>> 〈3436〉…
訓読 >>> にほ鳥の葛飾(かづしか)早稲(わせ)を饗(にへ)すともその愛(かな)しきを外(と)に立てめやも 要旨 >>> 葛飾の早稲を神に捧げる新嘗祭の夜であっても、愛しいあの人を外に立たせておくことなどできない。 鑑賞 >>> 「にほ鳥の」の…
訓読 >>> 鈴が音(ね)の早馬駅家(はゆまうまや)の堤井(つつみゐ)の水を賜(たま)へな妹(いも)が直手(ただて)よ 要旨 >>> 駅鈴(えきれい)の音が聞こえる早馬のいる駅家の、湧き井戸の水を下さい、娘さん、あなたの素手で直接に。 鑑賞 >>…
訓読 >>> 3496橘(たちばな)の古婆(こば)の放髪(はなり)が思ふなむ心うつくしいで我(あ)れは行かな 3497川上(かはかみ)の根白高萱(ねじろたかがや)あやにあやにさ寝(ね)さ寝てこそ言(こと)に出(で)にしか 3498海原(うなはら)の根(ね…
訓読 >>> 3368足柄(あしがり)の土肥(とひ)の河内(かふち)に出(い)づる湯の世(よ)にもたよらに子ろが言はなくに 3369足柄(あしがり)の麻万(まま)の小菅(こすげ)の菅枕(すがまくら)あぜかまかさむ子ろせ手枕(たまくら) 3370足柄(あし…
訓読 >>> あど思(も)へか阿自久麻山(あじくまやま)の弓絃葉(ゆづるは)の含(ふふ)まる時に風吹かずかも 要旨 >>> いったい何をぐずぐずしているのか、阿自久麻山のユズリハがまだ蕾(つぼみ)の時だからといって、風が吹かないなんてことがある…
訓読 >>> 志太(しだ)の浦を朝(あさ)漕(こ)ぐ船は由(よし)なしに漕ぐらめかもよ由(よし)こさるらめ 要旨 >>> 志太の浦を朝早く漕いで行く舟は、わけもなくあんなに急いで漕いでいるのだろうか。そんな筈はない、きっとわけがあって漕いでいる…
訓読 >>> 伊香保(いかほ)ろの沿(そ)ひの榛原(はりはら)ねもころに奥(おく)をな兼(か)ねそまさかしよかば 要旨 >>> 伊香保の山裾の榛原、その榛(はん)の木の入り組んだ根のように、くよくよと二人の先のことまで心配しなくていい。今の今が…
訓読 >>> 3515我(あ)が面(おも)の忘れむしだは国 溢(はふ)り嶺(ね)に立つ雲を見つつ偲(しの)はせ 3516対馬(つしま)の嶺(ね)は下雲(したぐも)あらなふ可牟(かむ)の嶺(ね)にたなびく雲を見つつ偲(しの)はも 要旨 >>> 〈3515〉私の…
訓読 >>> 我(あ)が恋はまさかも愛(かな)し草枕(くさまくら)多胡(たご)の入野(いりの)の奥も愛(かな)しも 要旨 >>> 私は今も恋しくて切ないけれど、多胡の入野の奥ほど、将来もずっと切ないことだろう。 鑑賞 >>> 上野(かみつけの)の…
訓読 >>> 信濃道(しなぬぢ)は今の墾(は)り道 刈りばねに足踏ましなむ沓(くつ)はけ我(わ)が背 要旨 >>> 信濃道(しなのぢ)は切り拓いたばかりの道です。きっと切り株をお踏みになるでしょう。靴を履いてお越しになって下さい、あなた。 鑑賞 …
訓読 >>> 安達太良(あだたら)の嶺(ね)に臥(ふ)す鹿猪(しし)のありつつも我(あ)れは至らむ寝処(ねど)な去りそね 要旨 >>> 安達太良山の鹿猪(しし)がいつも同じねぐらに帰って寝るように、私も毎晩通ってきて共寝をしようと思うから、その…
訓読 >>> 愛(かな)し妹(いも)をいづち行かめと山菅(やますげ)の背向(そがひ)に寝(ね)しく今し悔(くや)しも 要旨 >>> 愛しい妻が死んでしまうとは思わないで、山菅の葉のように背を向け合って寝たことが、今となっては悔やまれてならない。…
訓読 >>> 柵越(くへご)しに麦(むぎ)食(は)む小馬(こうま)のはつはつに相見(あひみ)し児(こ)らしあやに愛(かな)しも (或本の歌に曰はく)馬柵(うませ)越し麦(むぎ)食)は)む駒(こま)のはつはつに新肌(にひはだ)触れし児(こ)ろし…
訓読 >>> 筑波嶺(つくはね)の嶺(ね)ろに霞(かすみ)居(ゐ)過ぎかてに息づく君を率寝(ゐね)て遣(や)らさね 要旨 >>> 筑波嶺の嶺にかかった霞が動かないように門前を立ち去れず、ため息をついているあの人を、引っ張ってきて共寝してやりなさ…
訓読 >>> 埼玉(さきたま)の津に居(を)る船の風をいたみ綱は絶ゆとも言(こと)な絶えそね 要旨 >>> 風がひどいので、埼玉の船着き場につながれている船の綱が切れるようなことがあっても、あなたの言葉(便り)は絶やさないでください。 鑑賞 >>…
訓読 >>> 上つ毛野(かみつけの)安蘇(あそ)の真麻群(まそむら)かき抱(むだ)き寝(ぬ)れど飽(あ)かぬをあどか我(あ)がせむ 要旨 >>> 上野の安蘇の群れ立つ麻、その麻を束ねてかかえるようにしっかりと抱いて寝るけれど、それでもまだ満たさ…
訓読 >>> 3442東道(あづまぢ)の手児(てご)の呼坂(よびさか)越えがねて山にか寝(ね)むも宿りはなしに 3477東道(あづまぢ)の手児(てご)の呼坂(よびさか)越えて去(い)なば我(あ)れは恋(こ)ひむな後は逢ひぬとも 要旨 >>> 〈3442〉東…
訓読 >>> 足柄(あしがら)の箱根の山に粟(あは)蒔(ま)きて実(み)とはなれるを逢はなくも怪(あや)し 要旨 >>> 足柄の箱根の山の畑に粟を蒔いて、無事に実がなったというのに、粟(あわ)がない、逢わないなんておかしい。 鑑賞 >>> 相模の…
訓読 >>> 多摩川にさらす手作(てづく)りさらさらに何(なに)そこの児(こ)のここだ愛(かな)しき 要旨 >>> 多摩川の水にさらさらとさらして仕上げる手織りの布のように、さらにさらにこの娘(こ)をこんなに愛しく思うのか。 鑑賞 >>> 武蔵の…
訓読 >>> 3350筑波嶺(つくはね)の新桑繭(にひぐはまよ)の衣(きぬ)はあれど君が御衣(みけし)しあやに着欲(きほ)しも 3351筑波嶺に雪かも降らる否(いな)をかも愛(かな)しき児(こ)ろが布(にの)乾(ほ)さるかも 要旨 >>> 〈3350〉筑波…
訓読 >>> 3398人皆(ひとみな)の言(こと)は絶ゆとも埴科(はにしな)の石井の手児(てご)が言な絶えそね 3399信濃道(しなぬぢ)は今の墾(は)り道 刈りばねに足踏ましなむ沓(くつ)はけ我(わ)が背 3400信濃(しなぬ)なる千曲(ちくま)の川のさ…