大和の国のこころ、万葉のこころ

不肖私がこよなく愛する『万葉集』の鑑賞blogです。

『柿本人麻呂歌集』から

朱らひく膚に触れずて・・・巻第11-2399

訓読 >>> 朱(あか)らひく膚(はだ)に触れずて寝たれども心を異(け)しく我が念(も)はなくに 要旨 >>> 今夜はお前の美しい肌にも触れずに一人寝したが、それでも決してお前以外の人を思っているわけではないからね。 鑑賞 >>> 「正述心緒(あ…

忘るやと物語りして・・・巻第12-2844~2847

訓読 >>> 2844このころの寐(い)の寝(ね)らえぬは敷栲(しきたへ)の手枕(たまくら)まきて寝(ね)まく欲(ほ)りこそ 2845忘るやと物語りして心遣(こころや)り過ぐせど過ぎずなほ恋ひにけり 2846夜も寝(ね)ず安くもあらず白栲(しろたへ)の衣…

春柳葛城山に立つ雲の・・・巻第11-2453

訓読 >>> 春柳(はるやなぎ)葛城山(かづらきやま)に立つ雲の立ちても居(ゐ)ても妹(いも)をしぞ思ふ 要旨 >>> 春柳をかずらにする葛城山に湧き立つ雲のように、立っても座っても妻のことが思われてならない。 鑑賞 >>> 『柿本人麻呂歌集』か…

桜花咲きかも散ると見るまでに・・・巻第12-3129

訓読 >>> 桜花(さくらばな)咲きかも散ると見るまでに誰(た)れかも此所(ここ)に見えて散り行く 要旨 >>> まるで桜の花が咲いてすぐに散っていくように、誰も彼も、現れたかと思うとすぐまた散り散りになっていく。 鑑賞 >>> 『柿本人麻呂歌集…

御食向ふ南淵山の・・・巻第9-1709

訓読 >>> 御食(みけ)向(むか)ふ南淵山(みなぶちやま)の巌(いはほ)には降りしはだれか消え残りたる 要旨 >>> 南淵山の山肌の巌には、はらはらと降った淡雪がまだ消えずに残っている。 鑑賞 >>> 『柿本人麻呂歌集』から、「弓削皇子に献上し…

ぬばたまの夜さり来れば・・・巻第7-1101

訓読 >>> ぬばたまの夜さり来れば巻向(まきむく)の川音(かはと)高しも嵐(あらし)かも疾(と)き 要旨 >>> 暗闇の夜がやってくると、巻向川の川音が高くなった。嵐が来ているのだろうか。 鑑賞 >>> 『柿本人麻呂歌集』から1首。「ぬばたまの」…

朝戸出の君が足結を・・・巻第11-2357

訓読 >>> 朝戸出(あさとで)の君が足結(あゆひ)を濡らす露原(つゆはら) 早く起き出でつつ我(わ)れも裳裾(もすそ)濡らさな 要旨 >>> 朝、戸を出てお帰りになるあなたの足許を濡らす露の原。私も早起きして、あなたに連れ添って出て、裳裾を濡…

朝月の日向黄楊櫛・・・巻第11-2500

訓読 >>> 朝月(あさづき)の日向(ひむか)黄楊櫛(つげくし)古(ふ)りぬれど何しか君が見れど飽かざらむ 要旨 >>> 朝の月が日に向かうという、日向産の使い古した黄楊櫛(つげぐし)のように、私たちの仲もずいぶん古くなってしまいましたが、どう…

楽浪の比良山風の・・・巻第9-1715

訓読 >>> 楽浪(ささなみ)の比良山風(ひらやまかぜ)の海吹けば釣りする海人(あま)の袖(そで)返る見ゆ 要旨 >>> 比良山から湖上に吹き下ろす風に、釣り人の着物の袖がひらひらと翻っている。 鑑賞 >>> 『柿本人麻呂歌集』から。題詞に「槐本…

うち日さす宮道を人は・・・巻第11-2382

訓読 >>> うち日さす宮道(みやぢ)を人は満ち行けど我(あ)が思ふ君はただひとりのみ 要旨 >>> 都大路を人が溢れるほどに往来しているけれど、私が思いを寄せるお方はたったお一人っきりです。 鑑賞 >>> 『柿本人麻呂歌集』から「正述心緒(あり…

我れゆ後生まれむ人は・・・巻第11-2375~2376

訓読 >>> 2375我(わ)れゆ後(のち)生まれむ人は我(あ)がごとく恋する道に逢(あ)ひこすなゆめ2376ますらをの現(うつ)し心(ごころ)も我(わ)れはなし夜昼(よるひる)といはず恋ひしわたれば2377何せむに命(いのち)継ぎけむ我妹子(わぎもこ…

あしひきの山道も知らず・・・巻第10-2315

訓読 >>> あしひきの山道(やまぢ)も知らず白橿(しらかし)の枝もとををに雪の降れれば 要旨 >>> どこが山道なのか分からない。白橿の枝がたわむほどに雪が降り積もったので。 鑑賞 >>> 『柿本人麻呂歌集』から「冬の雑歌」1首です。「あしひきの…

我が袖に霰た走る・・・巻第10-2312

訓読 >>> 我(わ)が袖(そで)に霰(あられ)た走(ばし)る巻き隠(かく)し消(け)たずてあらむ妹(いも)が見むため 要旨 >>> 私の袖にあられが降りかかってきて飛び散る。それを袖をに包み隠し、なくならないようにしよう。妻に見せたいから。 …

山河の水陰に生ふる山菅の・・・巻第12-2862

訓読 >>> 山河の水陰(みかげ)に生ふる山菅(やますげ)の止(や)まずも妹(いも)がおもほゆるかも 要旨 >>> 山川の水辺の陰に生えている山菅(やますげ)のように、止まずに私はあなたを思っています。 鑑賞 >>> 『柿本人麻呂歌集』から「寄物…

愛しみ我が念ふ妹を・・・巻第12-2843

訓読 >>> 愛(うつく)しみ我(わ)が念(も)ふ妹(いも)を人みなの行く如(ごと)見めや手にまかずして 要旨 >>> おれの恋しい女が今あちらを歩いているが、それを普通の女と同じに平然と見ていられようか、手にまくことなしに。 鑑賞 >>> 『柿…

我が背子が朝けの形能く見ずて・・・巻第12-2841

訓読 >>> 我(わ)が背子(せこ)が朝けの形(すがた)能(よ)く見ずて今日(けふ)の間(あひだ)を恋ひ暮らすかも 要旨 >>> 私の夫が朝早くお帰りになる時の姿をよく見ずにしまって、一日中物足りなく寂しく思い、恋しく暮らしています。 鑑賞 >>…

成らむや君と問ひし子らはも・・・巻第11-2489

訓読 >>> 橘(たちばな)の本(もと)に我(わ)を立て下枝(しづえ)取り成(な)らむや君と問ひし子らはも 要旨 >>> 橘の木の下に私を向かい合って立たせて、下枝をつかみ、この橘のように私たちの仲も実るでしょうか、と問いかけたあの子だったのに…

我が玉にせむ知れる時だに・・・巻第11-2446~2447

訓読 >>> 2446白玉(しらたま)を巻(ま)きてぞ持てる今よりは我(わ)が玉にせむ知れる時だに2447白玉(しらたま)を手に巻(ま)きしより忘れじと思ひけらくは何か終(をは)らむ 要旨 >>> 〈2446〉白玉を腕に巻いている今からは、私だけの玉にしよ…

たらちねの母が手放れ斯くばかり・・・巻第11-2368

訓読 >>> たらちねの母が手放れ斯(か)くばかり術(すべ)なき事(こと)はいまだ為(せ)なくに 要旨 >>> 物心がつき、母の手を離れてから、これほどどうしていいか分からないことは、未だしたことがありません。 鑑賞 >>> 『柿本人麻呂歌集』か…

霞立つ春の長日を恋ひ暮らし・・・巻第10-1894~1896

訓読 >>> 1894霞(かすみ)立つ春の長日(ながひ)を恋ひ暮らし夜(よ)も更けゆくに妹(いも)も逢はぬかも 1895春されば先(ま)づ三枝(さきくさ)の幸(さき)くあらば後(のち)にも逢はむな恋ひそ我妹(わぎも) 1896春さればしだり柳(やなぎ)の…

春山の霧に惑へる鴬も・・・巻第10-1891~1893

訓読 >>> 1891冬こもり春咲く花を手折(たを)り持ち千(ち)たびの限り恋ひわたるかも 1892春山の霧(きり)に惑(まと)へる鴬(うぐひす)も我(わ)れにまさりて物思(ものも)はめやも 1893出(い)でて見る向(むか)ひの岡に本(もと)茂(しげ)…

巻向の桧原に立てる春霞・・・巻第10-1813~1815

訓読 >>> 1813巻向(まきむく)の桧原(ひはら)に立てる春霞(はるかすみ)おほにし思はばなづみ来(こ)めやも 1814いにしへの人の植ゑけむ杉(すぎ)が枝(え)に霞(かすみ)たなびく春は来(き)ぬらし 1815子らが手を巻向山(まきむくやま)に春さ…

ひさかたの天の香具山このゆふへ・・・巻第10-1812

訓読 >>> ひさかたの天(あま)の香具山(かぐやま)このゆふへ霞(かすみ)たなびく春立つらしも 要旨 >>> 天の香具山に、この夕暮れ、霞がたなびいている。どうやら、春になったらしいな。 鑑賞 >>> 「ひさかたの」は「天」の枕詞。「天の」は香…

大海を候ふ港事しあらば・・・巻第7-1308~1310

訓読 >>> 1308大海(おほうみ)を候(さもら)ふ港(みなと)事(こと)しあらばいづへゆ君は我(わ)を率(ゐ)しのがむ 1309風吹きて海は荒(あ)るとも明日(あす)と言はば久しくあるべし君がまにまに 1310雲(くも)隠(がく)る小島(こしま)の神…

帰ります間も思ほせ我れを・・・巻第10-1890

訓読 >>> 春山(はるやま)の友鶯(ともうぐひす)の泣き別れ帰ります間(ま)も思ほせ我(わ)れを 要旨 >>> 春山のウグイスが仲間同士で鳴き交わして別れるように、泣く泣く別れてお帰りになるその道すがらの間でも、思って下さい、この私のことを。…

一重の衣を一人着て寝れ・・・巻第12-2853

訓読 >>> 真玉(またま)つく遠(をち)をし兼ねて思へこそ一重(ひとへ)の衣(ころも)ひとり着て寝(ぬ)れ 要旨 >>> 私たちの将来のことを考えるからこそ、一重の薄い着物にくるまって一人寂しく着て寝ているのです。 鑑賞 >>> 「真玉つく」は…

我が身は千たび死に返らまし・・・巻第11-2389~2391

訓読 >>> 2389ぬばたまのこの夜(よ)な明けそ赤らひく朝(あさ)行く君を待たば苦しも 2390恋するに死(しに)するものにあらませば我(あ)が身は千(ち)たび死に返(かへ)らまし 2391玉かぎる昨日(きのふ)の夕(ゆふへ)見しものを今日(けふ)の…

春草を馬咋山ゆ・・・巻第9-1708

訓読 >>> 春草(はるくさ)を馬(うま)咋山(くひやま)ゆ越え来(く)なる雁(かり)の使(つか)ひは宿(やど)り過ぐなり 要旨 >>> 春の草を馬が食う、その咋山(くいやま)を越えてやってきた雁の使いは、何の伝言も持たず、この旅の宿りを通り過…

巨椋の入江響むなり・・・巻第9-1699~1700

訓読 >>> 1699巨椋(おほくら)の入江(いりえ)響(とよ)むなり射目人(いめひと)の伏見(ふしみ)が田居(たゐ)に雁(かり)渡るらし 1700秋風に山吹(やまぶき)の瀬の鳴るなへに天雲(あまくも)翔(かけ)る雁(かり)に逢へるかも 要旨 >>> …

一日には千重しくしくに我が恋ふる・・・巻第10-2234

訓読 >>> 一日(ひとひ)には千重(ちへ)しくしくに我(あ)が恋ふる妹(いも)があたりに時雨(しぐれ)降る見ゆ 要旨 >>> 一日の間に、幾度も重ね重ね私が恋い焦がれるあの子の家のあたりに、時雨がしきりに降っている。 鑑賞 >>> 『柿本人麻呂…