大和の国のこころ、万葉のこころ

不肖私がこよなく愛する『万葉集』の鑑賞blogです。

巻第9

明日の宵逢はざらめやも・・・巻第9-1761~1762

訓読 >>> 1761三諸(みもろ)の 神奈備山(かむなびやま)に 立ち向かふ 御垣(みかき)の山に 秋萩(あきはぎ)の 妻をまかむと 朝月夜(あさづくよ) 明けまく惜しみ あしひきの 山彦(やまびこ)響(とよ)め 呼び立て鳴くも 1762明日(あす)の宵(よ…

筑波嶺の裾廻の田井に・・・巻第9-1757~1758

訓読 >>> 1757草枕 旅の憂(うれ)へを 慰(なぐさ)もる 事もありやと 筑波嶺(つくはね)に 登りて見れば 尾花(をばな)散る 師付(しつく)の田居(たゐ)に 雁(かり)がねも 寒く来(き)鳴きぬ 新治(にひばり)の 鳥羽(とば)の淡海(あふみ)も…

ぬばたまの夜霧は立ちぬ・・・巻第9-1706

訓読 >>> ぬばたまの夜霧(よぎり)は立ちぬ衣手(ころもで)を高屋(たかや)の上にたなびくまでに 要旨 >>> 夜霧がたちこめている。屋敷の高殿の上まですっぽり覆いつくしてたなびくほどに。 鑑賞 >>> 『柿本人麻呂歌集』に載っている舎人皇子(…

遠妻し多珂にありせば・・・巻第9-1744~1746

訓読 >>> 1744埼玉(さきたま)の小埼(をさき)の沼に鴨(かも)ぞ羽(はね)霧(き)る 己(おの)が尾に降り置ける霜を掃(はら)ふとにあらし 1745三栗(みつぐり)の那賀(なか)に向へる曝井(さらしゐ)の絶えず通はむそこに妻(つま)もが 1746遠…

鹿島郡の苅野橋で、大伴卿と別れたときの歌・・・巻第9-1780~1871

訓読 >>> 1780牡牛(ことひうし)の 三宅(みやけ)の潟(かた)に さし向かふ 鹿島(かしま)の崎に さ丹(に)塗りの 小船(をぶね)を設(ま)け 玉巻きの 小楫(をかぢ)しじ貫(ぬ)き 夕潮(ゆふしほ)の 満ちのとどみに 御船子(みふなこ)を 率(…

検税使大伴卿が筑波山に登ったときの歌・・・巻第9-1753~1754

訓読 >>> 1753衣手(ころもで) 常陸(ひたち)の国の 二並(ふたなら)ぶ 筑波の山を 見まく欲(ほ)り君(きみ)来(き)ませりと 暑(あつ)けくに 汗(あせ)掻(か)きなけ 木(こ)の根(ね)取り うそぶき登り 峰(を)の上(うへ)を 君に見すれ…

さ夜中と夜は更けぬらし・・・巻第9-1701~1703

訓読 >>> 1701さ夜中と夜(よ)は更けぬらし雁(かり)が音(ね)の聞こゆる空に月渡る見ゆ 1702妹(いも)があたり繁(しげ)き雁(かり)が音(ね)夕霧(ゆふぎり)に来(き)鳴きて過ぎぬすべなきまでに 1703雲隠(くもがく)り雁(かり)鳴く時は秋…

ふさ手折り多武の山霧・・・巻第9-1704~1705

訓読 >>> 1704ふさ手折(たを)り多武(たむ)の山霧(やまぎり)繁(しげ)みかも細川(ほそかは)の瀬に波の騒(さわ)ける 1705冬こもり春へを恋ひて植ゑし木の実になる時を片待つ吾等(われ)ぞ 要旨 >>> 〈1704〉枝を手折ってたくさんためるとい…

たらちねの母の命の言にあらば・・・巻第9-1774~1775

訓読 >>> 1774たらちねの母の命(みこと)の言(こと)にあらば年の緒(を)長く頼め過ぎむや 1775泊瀬川(はつせがは)夕(ゆふ)渡り来て我妹子(わぎもこ)が家の金門(かなと)に近づきにけり 要旨 >>> 〈1774〉母の言われることなので、当てにさ…

持統太上天皇と文武天皇の紀伊国行幸の折の歌(3)・・・巻第9-1676~1679

訓読 >>> 1676背(せ)の山に黄葉(もみち)常敷(つねし)く神岡(かみをか)の山の黄葉は今日(けふ)か散るらむ 1677大和には聞こえも行くか大我野(おほがの)の竹葉(たかは)刈り敷き廬(いほ)りせりとは 1678紀の国の昔(むかし)弓雄(ゆみを)…

持統太上天皇と文武天皇の紀伊国行幸の折の歌(2)・・・巻第9-1672~1675

訓読 >>> 1672黒牛潟(くろうしがた)潮干(しほひ)の浦を紅(くれなゐ)の玉裳(たまも)裾(すそ)ひき行くは誰(た)が妻 1673風莫(かざなし)の浜の白波いたづらにここに寄せ来(く)る見る人なしに [一云 ここに寄せ来(く)も] 1674我(わ)が背…

持統太上天皇と文武天皇の紀伊国行幸の折の歌(1)・・・巻第9-1668~1671

訓読 >>> 1668白崎(しらさき)は幸(さき)くあり待て大船(おほぶね)に真梶(まかぢ)しじ貫(ぬ)きまたかへり見む 1669南部(みなべ)の浦(うら)潮な満ちそね鹿島(かしま)なる釣りする海人(あま)を見て帰り来(こ)む 1670朝開(あさびら)き…

みもろの神の帯ばせる泊瀬川・・・巻第9-1770~1772

訓読 >>> 1770みもろの神の帯(お)ばせる泊瀬川(はつせがは)水脈(みを)し絶えずは我(わ)れ忘れめや 1771後(おく)れ居(ゐ)て我(あ)れはや恋ひむ春霞(はるかすみ)たなびく山を君が越え去(い)なば 1772後(おく)れ居(ゐ)て我(あ)れは…

御食向ふ南淵山の・・・巻第9-1709

訓読 >>> 御食(みけ)向(むか)ふ南淵山(みなぶちやま)の巌(いはほ)には降りしはだれか消え残りたる 要旨 >>> 南淵山の山肌の巌には、はらはらと降った淡雪がまだ消えずに残っている。 鑑賞 >>> 『柿本人麻呂歌集』から、「弓削皇子に献上し…

真間娘子(ままのをとめ)伝説・・・巻第9-1807~1808

訓読 >>> 1807鶏(とり)が鳴く 吾妻(あづま)の国に 古(いにしへ)に ありける事と 今までに 絶えず言ひ来る 勝鹿(かつしか)の 真間(まま)の手児名(てごな)が 麻衣(あさぎぬ)に 青衿(あをくび)着け 直(ひた)さ麻(を)を 裳(も)には織り…

楽浪の比良山風の・・・巻第9-1715

訓読 >>> 楽浪(ささなみ)の比良山風(ひらやまかぜ)の海吹けば釣りする海人(あま)の袖(そで)返る見ゆ 要旨 >>> 比良山から湖上に吹き下ろす風に、釣り人の着物の袖がひらひらと翻っている。 鑑賞 >>> 『柿本人麻呂歌集』から。題詞に「槐本…

語り継ぐからにもここだ恋しきを・・・巻第9-1801~1803

訓読 >>> 1801古(いにしへ)の ますら壮士(をとこ)の 相競(あひきほ)ひ 妻問(つまど)ひしけむ 葦屋(あしのや)の 菟原処女(うなひをとめ)の 奥(おく)つ城(き)を 我(わ)が立ち見れば 永(なが)き世の 語りにしつつ 後人(のちひと)の 偲…

菟原処女(うなひをとめ)伝説・・・巻第9-1809~1811

訓読 >>> 1809葦屋(あしのや)の 菟原処女(うなひをとめ)の 八年子(やとせこ)の 片生(かたお)ひの時ゆ 小放(をばな)りに 髪たくまでに 並び居(を)る 家にも見えず 虚木綿(うつゆふ)の 隠(こも)りて居(を)れば 見てしかと いぶせむ時の …

わが行きは七日は過ぎじ・・・巻第9-1747~1748

訓読 >>> 1747白雲(しらくも)の 龍田(たつた)の山の 瀧(たき)の上の 小椋(をぐら)の嶺(みね)に 咲きををる 桜の花は 山高み 風しやまねば 春雨の 継ぎてし降れば ほつ枝(え)は 散り過ぎにけり 下枝(しづえ)に 残れる花は しましくは 散りな…

独り行く児に宿貸さましを・・・巻第9-1742~1743

訓読 >>> 1742級(しな)照る 片足羽川(かたしはがは)の さ丹(に)塗りの 大橋(おほはし)の上ゆ 紅(くれなゐ)の 赤裳(あかも)裾(すそ)ひき 山藍(やまあゐ)もち 摺(す)れる衣(きぬ)きて ただ独(ひと)り い渡らす児(こ)は 若草の 夫(…

夕されば小倉の山に伏す鹿の・・・巻第9-1664

訓読 >>> 夕されば小倉(をぐら)の山に伏(ふ)す鹿の今夜(こよひ)は鳴かず寝(い)ねにけらしも 要旨 >>> 夕暮れになると小倉の山に伏す鹿は、今夜は鳴かずに寝てしまったようだ。 鑑賞 >>> 巻第9の冒頭におかれた雄略天皇の御製歌ですが、舒明…

嬥歌(かがい)の会の歌・・・巻第9-1759~1760

訓読 >>> 1759鷲(わし)の住む 筑波の山の 裳羽服津(もはきつ)の その津の上に 率(あども)ひて 娘子(をとめ)壮士(をとこ)の 行き集(つど)ひ かがふ嬥歌(かがひ)に 人妻に 我(わ)も交(まじ)はらむ 我(わ)が妻に 人も言(こと)問へ こ…

我妹子は釧にあらなむ・・・巻第9-1766

訓読 >>> 我妹子(わぎもこ)は釧(くしろ)にあらなむ左手の我(わ)が奥(おく)の手に巻きて去(い)なましを 要旨 >>> あなたが釧であったらいいのに。そしたら、左手の私の大事な奥の手に巻いて旅立とうものを。 鑑賞 >>> 振田向宿祢(ふるの…

妹がため我れ玉拾ふ・・・巻第9-1665~1666

訓読 >>> 1665妹(いも)がため我(わ)れ玉 拾(ひり)ふ沖辺(おきへ)なる玉寄せ持ち来(こ)沖つ白波(しらなみ) 1666朝霧(あさぎり)に濡(ぬ)れにし衣(ころも)干(ほ)さずしてひとりか君が山路(やまぢ)越ゆらむ 要旨 >>> 〈1665〉妻のた…

春草を馬咋山ゆ・・・巻第9-1708

訓読 >>> 春草(はるくさ)を馬(うま)咋山(くひやま)ゆ越え来(く)なる雁(かり)の使(つか)ひは宿(やど)り過ぐなり 要旨 >>> 春の草を馬が食う、その咋山(くいやま)を越えてやってきた雁の使いは、何の伝言も持たず、この旅の宿りを通り過…

巨椋の入江響むなり・・・巻第9-1699~1700

訓読 >>> 1699巨椋(おほくら)の入江(いりえ)響(とよ)むなり射目人(いめひと)の伏見(ふしみ)が田居(たゐ)に雁(かり)渡るらし 1700秋風に山吹(やまぶき)の瀬の鳴るなへに天雲(あまくも)翔(かけ)る雁(かり)に逢へるかも 要旨 >>> …

我妹子が結ひてし紐を・・・巻第9-1787~1789

訓読 >>> 1787うつせみの 世の人なれば 大君(おほきみ)の 命(みこと)畏(かしこ)み 敷島(しきしま)の 大和の国の 石上(いそのかみ) 布留(ふる)の里に 紐(ひも)解かず 丸寝(まろね)をすれば 我が着たる 衣はなれぬ 見るごとに 恋はまされど…

父母が成しのまにまに・・・巻第9-1804~1806

訓読 >>> 1804父母(ちちはは)が 成(な)しのまにまに 箸(はし)向かふ 弟(おと)の命(みこと)は 朝露(あさつゆ)の 消(け)やすき命(いのち) 神の共(むた) 争ひかねて 葦原(あしはら)の 瑞穂(みづほ)の国に 家なみや また帰り来(こ)ぬ…

明日よりは我れは恋ひむな名欲山・・・巻第9-1778~1779

訓読 >>> 1778明日よりは我(あ)れは恋ひむな名欲山(なほりやま)岩(いは)踏(ふ)み平(なら)し君が越え去(い)なば 1779命(いのち)をしま幸(さき)くもがも名欲山(なほりやま)岩(いは)踏(ふ)み平(なら)しまたまたも来(こ)む 要旨 >…

み越路の雪降る山を越えむ日は・・・巻第9-1785~1786

訓読 >>> 1785人となる ことは難きを わくらばに なれる我(あ)が身は 死にも生きも 君がまにまと 思ひつつ ありし間(あいだ)に うつせみの 世の人なれば 大君(おほきみ)の 命(みこと)恐(かしこ)み 天(あま)ざかる 夷(ひな)治(おさ)めにと…