大和の国のこころ、万葉のこころ

不肖私がこよなく愛する『万葉集』の鑑賞blogです。

ぬばたまの斐太の大黒見るごとに・・・巻第16-3844~3845

訓読 >>>

3844
ぬばたまの斐太(ひだ)の大黒(おほぐろ)見るごとに巨勢(こせ)の小黒(をぐろ)し思ほゆるかも

3845
駒(こま)造る土師(はじ)の志婢麻呂(しびまろ)白くあればうべ欲しからむその黒き色を

 

要旨 >>>

〈3844〉真っ黒な斐太の大黒顔を見ると、そのたびに巨勢の小黒の顔が思い浮かぶことだ。

〈3845〉埴輪の馬づくりの土師の志婢麻呂(しびまろ)は青白いものだから、なるほどその黒色が欲しいのだろうな。

 

鑑賞 >>>

 色黒を笑った歌。左注に、次のような言い伝えがあるとの説明があります。大舎人(おおとねり)の土師宿祢水通(はにしのすくねみみち)、字(あざな)を志婢麻呂という者がいた。時に、大舎人の巨勢朝臣豊人(こせのあそみとよひと)、字を正月麻呂という者と、巨勢斐太朝臣(こせのひだのあそみ)〈名と字は忘れた。島村大夫(しまむらだいぶ)の息子である〉の二人はともに顔の色が黒かった。そこで土師宿祢水通がこの歌(3844)を作ってからかったので、巨勢朝臣豊人はこれを聞いて、即座に答える歌(3845)を作ってからかい返した、という。

 3844の「ぬばたまの」は「黒」の枕詞。「斐太の大黒」は、巨勢斐太朝臣のあだ名で、「巨勢の小黒」は、巨勢朝臣豊人のあだ名。前者は色黒で体が大きかったところから飛騨産の大黒馬の意味が込められ、後者は色黒で体が小さかったところから巨勢産の小黒馬の意味が込められているとされます。3845の「駒造る」は「土師」の枕詞。「駒」は、埴輪の馬を指し、「土師」は、埴輪などの土器を作る職人。「うべ」は、なるほど、いかにもの意。