大和の国のこころ、万葉のこころ

不肖私がこよなく愛する『万葉集』の鑑賞blogです。

ふたりして結びし紐をひとりして・・・巻第12-2918~2920

訓読 >>>

2918
おほかたは何(なに)かも恋ひむ言挙(ことあ)げせず妹(いも)に寄り寝(ね)む年は近きを

2919
ふたりして結びし紐(ひも)をひとりして我(あ)れは解き見じ直(ただ)に逢ふまでは

2920
死なむ命(いのち)此(ここ)は思はずただしくも妹(いも)に逢はざる事をしぞ思ふ

 

要旨 >>>

〈2918〉普通ならなぜこんなに恋い焦がれることがあろう。あれこれ言わずとも、あの子と寄り添って寝る年は近いのに。

〈2919〉二人で結んだ衣の紐を、一人で私は解いたりなんかしない、じかに逢うまでは。

〈2920〉死ぬべき命だが、それは何とも思わない。ただ愛する人に逢えないことを辛く思う。

 

鑑賞 >>>

 「正述心緒(ありのままに思いを述べた歌)」。2918の「おほかたは」は、普通は、一般に。「何かも~む」は、反語。「言挙げ」は、思うことを言葉に出して言うこと。2919について、夫婦が離れる時には互いに下紐を結び交わし、逢った時に解き交わすことが風習になっていました。一人で解くのは他人と関係することを意味します。2920の「死なむ命」は、生命の本質としての死ぬべき命。「ただしくも」は、ただしかし。