訓読 >>>
2918
おほかたは何(なに)かも恋ひむ言挙(ことあ)げせず妹(いも)に寄り寝(ね)む年は近きを
2919
ふたりして結びし紐(ひも)をひとりして我(あ)れは解き見じ直(ただ)に逢ふまでは
2920
死なむ命(いのち)此(ここ)は思はずただしくも妹(いも)に逢はざる事をしぞ思ふ
要旨 >>>
〈2918〉普通ならなぜこんなに恋い焦がれることがあろう。あれこれ言わずとも、あの子と寄り添って寝る年は近いのに。
〈2919〉二人で結んだ衣の紐を、一人で私は解いたりなんかしない、じかに逢うまでは。
〈2920〉死ぬべき命だが、それは何とも思わない。ただ愛する人に逢えないことを辛く思う。
鑑賞 >>>
「正述心緒(ありのままに思いを述べた歌)」。2918の「おほかたは」は、普通は、一般に。「何かも~む」は、反語。「言挙げ」は、思うことを言葉に出して言うこと。2919について、夫婦が離れる時には互いに下紐を結び交わし、逢った時に解き交わすことが風習になっていました。一人で解くのは他人と関係することを意味します。2920の「死なむ命」は、生命の本質としての死ぬべき命。「ただしくも」は、ただしかし。
『万葉集』クイズ
次の歌の作者は誰?
- わが行きは久にはあらじ夢のわだ瀬にはならずて淵にあらぬかも
- 恋ひ恋ひて逢へる時だに愛しき言尽くしてよ長くと思はば
- 大橋の頭に家あらばま悲しく独り行く児に宿貸さましを
- あしひきの山のしづくに妹待つとわれ立ち濡れぬ山のしづくに
- 君が行き日長くなり山たづね迎へ行かむ待ちにか待たむ
- 丈夫や片恋ひせむと嘆けども醜のますらをなほ恋ひにけり
- わが里に大雪降れり大原の古りにし里に降らまくは後
- 吾はもや安見児得たり皆人の得がてにすとふ安見児得たり
- 近江の海夕波千鳥汝が鳴けば心もしのに古思ほゆ
- 士やも空しくあるべき万代に語り継ぐべき名は立てずして
【解答】
1.大伴旅人 2.大伴坂上郎女 3.高橋虫麻呂 4.大津皇子 5.磐姫皇后 6.舎人皇子 7.天武天皇 8.藤原鎌足 9.柿本人麻呂 10.山上憶良