大和の国のこころ、万葉のこころ

不肖私がこよなく愛する『万葉集』の鑑賞blogです。

東歌(15)・・・巻第14-3410

訓読 >>>

伊香保(いかほ)ろの沿(そ)ひの榛原(はりはら)ねもころに奥(おく)をな兼(か)ねそまさかしよかば

 

要旨 >>>

伊香保の山裾の榛原、その榛(はん)の木の入り組んだ根のように、くよくよと二人の先のことまで心配しなくていい。今の今が幸せならそれでいいではないか。

 

鑑賞 >>>

 上野(かみつけの)の国の歌で、将来に不安を抱いている女に対して、男が「くよくよしなくていい」と説得している歌です。「伊香保ろ」は群馬県榛名山。上2句は「ねもころに」を導く序詞。「奥」は将来の意。「な兼ねそ」の「な~そ」は禁止。「兼ぬ」は先のことを前もって心配すること。「まさか」は現在。

 上代の人々が「将来」のことを「奥」と言っているのには、将来は向こうにあるものでも、向こうから来るものでもない、現在の奥にあるのが将来だという考え方があったのかもしれません。