大和の国のこころ、万葉のこころ

不肖私がこよなく愛する『万葉集』の鑑賞blogです。

飛騨人の打つ墨縄のただ一道に・・・巻第11-2648

訓読 >>>

かにかくに物は思はじ飛騨人(ひだひと)の打つ墨縄(すみなは)のただ一道(ひとみち)に

 

要旨 >>>

あれこれと物思いはするまい。飛騨人の打つ墨縄がまっすぐに伸びているように、ただ一筋にあなたを思っています。

 

鑑賞 >>>

 「かにかくに」は、あれこれと、の意。「飛騨人の打つ墨縄の」は「ただ一道に」を導く序詞。「飛騨人」は、ここでは飛騨の工匠(たくみ)のことを言っています。飛騨にはさまざまな名工の伝説があり、とくに木工職人が真っ直ぐに打つ墨縄には定評があったのでしょう。朝廷は飛騨地方には他の税を免除して工人の徴用だけを求めたといいます。

 「墨縄」は「墨糸」ともいい、大工や木工職人が、材木などに黒い線を引くときに用いる道具です。墨を染み込ませた糸を両側から引っ張ってぴんと張り、真ん中を上につまんで手を離すと、反動で材木の表面に真っ直ぐな線を引くことができます。もっとも、そうした光景は最近ではあまり見かけなくなってきました。

 

f:id:yukoyuko1919:20220217094257j:plain