大和の国のこころ、万葉のこころ

不肖私がこよなく愛する『万葉集』の鑑賞blogです。

東歌(38)・・・巻第14-3500

訓読 >>>

紫草(むらさき)は根をかも終(を)ふる人の子のうら愛(がな)しけを寝(ね)を終(を)へなくに

 

要旨 >>>

紫草は根を染料に使い果たすという。が、私は、あの子が愛しくてならないのに、共寝を果たすことができない。

 

鑑賞 >>>

 「紫草」は、その根から紫色の染料を採る野草。「根をかも終ふる」は、根を終わりにするだろうか、その根の用を果たすのだろうか。「人の子」の「人の」は、女の愛称の「子」を強調するために冠したもの。「うら愛しけ」は「うら愛しき」の東語。懸想している女を我が物にできずにいるのを嘆き、「根」と「寝」を語呂合わせにした歌です。窪田空穂はこの歌について、「序詞から見て、東国の歌とは取れるが、上品で、気が利いていて、奈良朝時代を思わせる歌である」と述べています。

 

 

歌の形式

片歌
5・7・7の3句定型の歌謡。記紀に見られ、奈良時代から雅楽寮・大歌所において、曲節をつけて歌われた。

旋頭歌
 5・7・7、5・7・7の6句定型の和歌。もと片歌形式の唱和による問答体から起こり、第3句と第6句がほぼ同句の繰り返しで、口誦性に富む。記紀万葉集に見られ、万葉後期には衰退した。

長歌
 5・7音を3回以上繰り返し、さらに7音の1句を加えて結ぶ長歌形式の和歌。奇数句形式で、ふつうこれに反歌として短歌形式の歌が1首以上添えられているのが完備した形。記紀歌謡にも見られるが、真に完成したのは万葉集においてであり、前期に最も栄えた。 

短歌
 5・7・5・7・7の5句定型の和歌。万葉集後期以降、和歌の中心的歌体となる。

仏足石歌体
 5・7・5・7・7・7の6句形式の和歌。万葉集には1首のみ。