大和の国のこころ、万葉のこころ

不肖私がこよなく愛する『万葉集』の鑑賞blogです。

潮干なば玉藻刈りつめ・・・巻第3-360~362

訓読 >>>

360
潮干(しほひ)なば玉藻(たまも)刈りつめ家の妹(いも)が浜づと乞(こ)はば何を示さむ

361
秋風の寒き朝明(あさけ)を佐農(さぬ)の岡(おか)越ゆらむ君に衣(きぬ)貸さましを

362
みさご居(ゐ)る磯廻(いそみ)に生(お)ふるなのりその名は告(の)らしてよ親は知るとも

 

要旨 >>>

〈360〉潮が引いたら藻を刈って集めておこう。家の妻が浜の土産を求めたなら、ほかに何も見せるものはないのだから。

〈361〉秋風が吹く寒い夜明けに、今ごろ佐農の岡を越えているだろうあなたに、私の着物を貸しておけばよかった。

〈362〉みさごが棲む磯の辺りに生えている名乗藻(なのりそ)ではないが、名を教えてほしい。たとえ親が知ったとしても。

 

鑑賞 >>>

 山部赤人による瀬戸内の羈旅歌。360の「玉藻」の「玉」は美称。「浜づと」は、浜からの土産。361は、陸行の歌で、女の立場で詠んでいます。「朝明」は、朝明けの約。「佐農の岡」は、所在未詳。362は、旅先の女に語りかけた歌。「みさご」は、タカ科の鳥。上3句は「名」を導く序詞。

 

 

旧仮名の発音について

 家を「いへ」、今日を「けふ」、泥鰌を「どぜう」などの旧仮名は、そのように表記するだけであって、発音は別だったと思われがちですが、近世以前にあっては、その文字通りに「いへ」「けふ」「どぜう」と発音していました。
 ただし、その発音は、今の私たちが文字から認識するのと全く同一ではなく、たとえば「は行音」の「は・ひ・ふ・へ・ほ」は「ふぁ・ふぃ・ふ・ふぇ・ふぉ」に近かったとされます。だから、母は「ふぁふぁ」であり、人は「ふぃと」です。「あ・い・う・え・お」の5母音にしても、「い・え・お」に近い母音が3つあったといいます。
 また、万葉仮名として当てられた漢字では、雪は由伎・由吉・遊吉などと書かれているのに対し、月は都紀・都奇などとなっており、同じ「き」なのに、月には「吉」が使われていません。そのように書き分けたのは、「き」の発音が異なっていたからだろうといわれています。

※ 参考文献はこちらに記載しています。⇒『万葉集』について