大和の国のこころ、万葉のこころ

不肖私がこよなく愛する『万葉集』の鑑賞blogです。

言問はぬ木すら妹と兄とあり・・・巻第6-1007

訓読 >>>

言問(ことと)はぬ木すら妹(いも)と兄(せ)とありといふをただ独(ひと)り子にあるが苦しさ

 

要旨 >>>

ものを言わない木にさえも兄弟姉妹があるというのに、私はまったくの一人っ子であるのが悲しい。

 

鑑賞 >>>

 市原王(いちはらのおおきみ)の「独り子にあることを悲しぶる」歌。市原王(生没年未詳)は天智天皇5世の孫で、志貴皇子または川島皇子の孫、安貴王の子にあたります。天平宝字7年(763年)に、造東大寺長官。『万葉集』には8首の歌が載っています。

 「言問はぬ」は、物を言わない。「木すら妹と兄とあり」というのは、同じ根から複数の幹が生えているもの、または雌株と雄株のある木をいっているのでしょうか。『万葉集』の歌では、多く男性から親愛の情を込めて女性を呼ぶ呼称として用いられる「妹」ですが、元来は男性から女性の姉妹をさす親族名称であり、ここでの「妹」はその原義で用いられています。