大和の国のこころ、万葉のこころ

不肖私がこよなく愛する『万葉集』の鑑賞blogです。

我妹子は釧にあらなむ・・・巻第9-1766

訓読 >>>

我妹子(わぎもこ)は釧(くしろ)にあらなむ左手の我(わ)が奥(おく)の手に巻きて去(い)なましを

 

要旨 >>

あなたが釧であったらいいのに。そしたら、左手の私の大事な奥の手に巻いて旅立とうものを。

 

鑑賞 >>>

 振田向宿祢(ふるのたむけすくね:伝未詳)が、筑紫の官に任ぜられて下った時の歌。「釧」は、腕輪で、手首やひじのあたりに巻いた飾り。「なむ」は、願望の助詞。「奥の手」は、左手を右手よりも尊んでの称とされ、左手は右手よりも不浄に触れることが少ないとしての上代の信仰によるとみられています。この風習は、いまも欧州に残っているといいます。「巻きて去なましを」は、巻いて持って行こうものを。
 
 愛する人との別れに際し、その人を身につける品にして持って行きたいというのは類想が多くありますが、釧(腕輪)にしたいと歌っているのは珍しいものです。