大和の国のこころ、万葉のこころ

不肖私がこよなく愛する『万葉集』の鑑賞blogです。

駅路に引き舟渡し直乗りに・・・巻第11-2748~2749

訓読 >>>

2748
大船(おほぶね)に葦荷(あしに)刈り積みしみみにも妹(いも)は心に乗りにけるかも

2749
駅路(はゆまぢ)に引き舟渡し直(ただ)乗りに妹(いも)は心に乗りにけるかも

 

要旨 >>>

〈2748〉大船に刈り取った葦をどっさり積んだように、あなたは私の心にどっしりと乗りかかってしまったよ。

〈2749〉宿駅の渡し場から舟を引いて一直線に向こう岸に渡るように、彼女はまっしぐらに私の心に乗りかかってしまった。

 

鑑賞 >>>

 「寄物陳思(物に寄せて思いを述べた歌)」。2748の上2句は「しみみに」を導く序詞。「しみみに」は密集しているさま。2749の上2句は「直乗り」を導く序詞。「駅路」は駅馬が通行する街道。ここでは水駅(すいえき)を指し、川や湖の渡し場などに水駅を設け、駅馬に代えて舟を配置していました。「引き舟渡し」とあるように、舟に綱をつけて、対岸から引き寄せました。2748も2749も、相手のことが心に乗り移って離れない、心を占めることを「心に乗る」と表現しています。

 

 

 

万葉集』の三大部立て

雑歌(ぞうか)
 公的な歌。宮廷の儀式や行幸、宴会などの公の場で詠まれた歌。相聞歌、挽歌以外の歌の総称でもある。

相聞歌(そうもんか)
 男女の恋愛を中心とした私的な歌で、万葉集の歌の中でもっとも多い。男女間以外に、友人、肉親、兄弟姉妹、親族間の歌もある。

挽歌(ばんか)
 死を悼む歌や死者を追慕する歌など、人の死にかかわる歌。挽歌はもともと中国の葬送時に、棺を挽く者が者が謡った歌のこと。

万葉集』に収められている約4500首の歌の内訳は、雑歌が2532首、相聞歌が1750首、挽歌が218首となっています。