大和の国のこころ、万葉のこころ

不肖私がこよなく愛する『万葉集』の鑑賞blogです。

東歌(29)・・・巻第14-3358~3360

訓読 >>>

3358
さ寝(ぬ)らくは玉の緒(を)ばかり恋ふらくは富士の高嶺(たかね)の鳴沢(なるさは)のごと

3359
駿河(するが)の海おし辺(へ)に生(お)ふる浜つづら汝(いまし)を頼み母に違(たが)ひぬ [一云 親に違ひぬ]

3360
伊豆(いづ)の海に立つ白波(しらなみ)のありつつも継(つ)ぎなむものを乱れしめめや
[或本の歌には「白雲の絶えつつも継がむと思へや乱れそめけむ」といふ]

 

要旨 >>>

〈3358〉共寝をするのは玉の緒ほどに短く、逢えずに恋うる心は、富士の高嶺の鳴沢のように深く激しい。

〈3359〉駿河の海の磯辺に生えて延び続ける浜のつる草のように、末長くあなたを頼りにしようと、母さんと喧嘩をしたのです(親と喧嘩をしたのです)。

〈3360〉伊豆の海に立つ白波のように、二人の仲はこのまま続けていこうと思っているのに、私があなたの心を乱れさせることがありましょうか。[伊豆の海に湧き立つ白雲のように、途絶えがちであっても二人の仲を続けようという気持ちから、私の心が乱れ始めたのでしょうか、そんなはずはない。]

 

鑑賞 >>>

 3358・3359は駿河の国(静岡県中央部)の歌。3358の「さ寝らく」は、共寝をすること。「さ」は接頭語。「鳴沢」は、噴火口または大沢など岩石が音を立てて崩れ落ちる沢。3359の上3句は「汝を頼み」を導く序詞。「おし辺」は「磯辺」の東語。「浜つづら」は、浜に生えるつる草。

 3360は伊豆の国の歌。上2句は「ありつつも継ぐ」を導く序詞。「ありつつも」は、この世に長らえ続けつつも。「乱れしめめや」の「乱れ」は、夫婦関係の乱れ、「しめ」は「そめ」の東語、「や」は反語で、この関係を乱れ始めさせようか、させはしない。なお、律令法において、伊豆国は遠流の対象地とされていました。これは伊豆諸島が隠岐佐渡と並ぶ辺境の島であると考えられ、伊豆半島はその入り口とされたことが背景にあると言われています。