大和の国のこころ、万葉のこころ

不肖私がこよなく愛する『万葉集』の鑑賞blogです。

虎に乗り古屋を越えて・・・巻第16-3833

訓読 >>>

虎(とら)に乗り古屋(ふるや)を越えて青淵(あをふち)に蛟龍(みつち)捕(と)り来(こ)む剣太刀(つるぎたち)もが

 

要旨 >>>

虎に乗って古屋を飛び越えて、青淵に棲む蛟龍(みづち)を生け捕りできる、そんな剣太刀がほしいものよ。

 

鑑賞 >>>

 境部王(さかいべのおおきみ)が数種の物を詠んだ歌。境部王は穂積親王の子とあります。どうやら恐ろしいものを取り合わせた歌のようですが、「虎」は日本にはいませんから、大陸伝来の絵図などから想像したのでしょう。古屋がなぜ恐ろしいのか疑問に思いますが、昔は、人が住まない古屋や廃屋には鬼が住むとして忌避され、「虎や狼より古屋の雨漏りのほうが怖い」という諺もあったほどです。虎も古屋の雨漏りを恐れるとされていたようです。「青淵」は深く水をたたえて青く見える淵。「蛟龍」は、水の霊で竜に似た想像上の動物。「蛟」は蛇に似て4本足だといいます。