大和の国のこころ、万葉のこころ

不肖私がこよなく愛する『万葉集』の鑑賞blogです。

宴席の歌(7)・・・巻第18-4066~4069

訓読 >>>

4066
卯(う)の花の咲く月立ちぬ霍公鳥(ほととぎす)来(き)鳴き響(とよ)めよ含(ふふ)みたりとも

4067
二上(ふたがみ)の山に隠(こも)れる霍公鳥(ほととぎす)今も鳴かぬか君に聞かせむ

4068
居(を)り明かしも今夜(こよひ)は飲まむほととぎす明けむ朝(あした)は鳴き渡らむそ

4069
明日(あす)よりは継ぎて聞こえむほととぎす一夜(ひとよ)のからに恋ひ渡るかも

 

要旨 >>>

〈4066〉卯の花が咲く月がやってきた。ホトトギスよ、やって来て鳴き立てておくれ、花はまだ蕾みであっても。

〈4067〉二上山にこもっているホトトギスよ。今こそ鳴いてくれないか。わが君にお聞かせしたいから。

〈4068〉このまま夜明かししてでも今夜は飲んでいよう。ホトトギスは、夜が明けた朝にはきっと鳴き声を立てて飛んで来るに違いない。

〈4069〉明日からはひっきりなしに聞こえるはずのホトトギスを、たった一晩鳴かないだけでこんなに焦がれていることだ。

 

鑑賞 >>>

 天平20年(748年)4月1日、掾(じょう)米朝臣広縄(くめのあそみひろなわ)の館で酒宴を催したときの歌。「掾」は国司の三等官。4066・4068が大伴家持の歌、4067が宴に同席した遊行女婦の土師(はにし)の歌、4069が同じく羽咋郡(はくいのこおり)の擬主帳(ぎしゅちょう)能登臣乙美(のとのおみおとみ)の歌です。「擬主帳」は、郡司の四等官の主張(本官)に準じる役で、帳簿や文書を司る役目。

 4066の「含みたりとも」は、花はつぼんでいようとも。4067の「二上の山」は富山県高岡市の北方にある山。4068の「居り明かしも」は、起きていて夜を明かしても、徹夜しても。4069の「継ぎて」は、続けて。「からに」は、ために。宴歌の題材として、ホトトギスの鳴き声がいかに興を添えるものであったかが窺える歌です。