大和の国のこころ、万葉のこころ

不肖私がこよなく愛する『万葉集』の鑑賞blogです。

まそ鏡見ませ我が背子我が形見・・・巻第12-2978~2980

訓読 >>>

2978
まそ鏡(かがみ)見ませ我が背子我が形見(かたみ)持てらむ時に逢はざらめやも

2979
まそ鏡(かがみ)直目(ただめ)に君を見てばこそ命(いのち)に向(むか)ふ我(あ)が恋やまめ

2980
まそ鏡(かがみ)見飽(みあ)かぬ妹(いも)に逢はずして月の経(へ)ゆけば生けりともなし

 

要旨 >>>

〈2978〉この鏡をいつもごらん下さい、あなた。これを私の形見だと思って持っていらっしゃるかぎり、逢えないなんてことがありましょうか。

〈2979〉鏡に向かうように、じかにあなたのお顔が見られてこそ、命がけの私の恋も鎮まることでしょう。

〈2980〉鏡を見るように、見ても見ても見飽きないあの子に逢わないまま月が経ってゆくので、生きている心地がしない。

 

鑑賞 >>>

 「寄物陳思(物に寄せて思いを述べた歌)」で、鏡に寄せての歌。2978~2980の「まそ鏡」は、よく映る白銅製の鏡のことで、いずれも「見」の枕詞。2978の「形見」は、自身の身代わりとして贈る物。旅の別れに鏡を贈るのは、中国から伝わった風習だといいます。「持てらむ時」は、持っていたならその時。「やも」は、反語。歌の別の解釈として、形見を持っていれば共にいるのと同じだから、常に逢っていることだとするものもあります。2979の「命に向ふ」は、命に値する、命がけの。「我が恋やまめ」の「め」は「こそ」の係り結び。2980の「生けりともなし」は、生きているとも思われない。

 

 

 

係り結び

 文中に「ぞ・なむ・や・か・こそ」など、特定の係助詞が上にあるとき、文末の語が終止形以外の活用形になる約束ごと。係り結びは、内容を強調したり疑問や反語をあらわしたりするときに用いられます。

①「ぞ」「なむ」・・・強調の係助詞
 ⇒ 文末は連体形
   例:~となむいひける

②「や」「か」・・・疑問・反語の係助詞
 ⇒ 文末は連体形
   例:~やある

③「こそ」・・・強調の係助詞
 ⇒ 文末は已然形
   例:~とこそ聞こえけれ

『万葉集』掲載歌の索引

各巻の概要