大和の国のこころ、万葉のこころ

不肖私がこよなく愛する『万葉集』の鑑賞blogです。

誰ぞ彼と問はば答へむ・・・巻第11-2545

訓読 >>>

誰(た)そ彼(かれ)と問はば答へむ術(すべ)をなみ君が使(つかひ)を帰しやりつも

 

要旨 >>>

あの人は誰かと問われても、答えようがないので、あなたからの使いをそのまま帰してしまいました。

 

鑑賞 >>>

 男との関係を家人に秘密にしている女の許へ、男から使いが来たので、女は当惑してただ帰してしまい、その後で男に弁解した歌です。「誰そ彼」は、あの人は誰か。「たそがれどき(人の顔が見分けにくい時刻)」の語源になった言葉です。「答へむ術をなみ」は、返事のしようがないので。

 母親が不審に思って娘に問いかけたのでしょうか。この歌からは、逢引の約束は夕方にやって来る使いがとりつけたことが窺えます。そして、使いが来ることは恋仲の相手がいることを示し、逆に使いが来ないのは、関係が停滞していることを暗示するものでした。切ない後悔の歌ですが、母親の監視の目をかいくぐって相手と通じ合うことの苦労が窺えます。