大和の国のこころ、万葉のこころ

不肖私がこよなく愛する『万葉集』の鑑賞blogです。

うつつにか妹が来ませる・・・巻第12-2917

訓読 >>>

うつつにか妹(いも)が来ませる夢(いめ)にかも我(わ)れか惑(まど)へる恋の繁(しげ)きに

 

要旨 >>>

実際に彼女がやってきたのか、それとも夢なのか、あるいは私が取り乱しているのか、恋の激しさのために。

 

鑑賞 >>>

 作者未詳の「正述心緒(ありのままに思いを述べた歌)」。「うつつ」は、現実。「来ませる」は「来る」の敬語。この歌について作家の大嶽洋子は、「後世の伊勢物語の下地ではないかと思われるような物語性のある歌である。妹に対して『来ませる』などと敬語を使っているところは、伊勢物語第69段の斎宮と昔男との月夜の出来事を思わせる。夢に私が迷ったのか、それとも現実に恋人がやって来たのだろうかと複雑な現実と夢の世界の織りなす幻覚を詠っている。迷う男にとってどちらも真実の世界なのだろう」と述べています。

 

 

 

万葉集』の三大部立て

雑歌(ぞうか)
 公的な歌。宮廷の儀式や行幸、宴会などの公の場で詠まれた歌。相聞歌、挽歌以外の歌の総称でもある。

相聞歌(そうもんか)
 男女の恋愛を中心とした私的な歌で、万葉集の歌の中でもっとも多い。男女間以外に、友人、肉親、兄弟姉妹、親族間の歌もある。

挽歌(ばんか)
 死を悼む歌や死者を追慕する歌など、人の死にかかわる歌。挽歌はもともと中国の葬送時に、棺を挽く者が者が謡った歌のこと。

万葉集』に収められている約4500首の歌の内訳は、雑歌が2532首、相聞歌が1750首、挽歌が218首となっています。

『万葉集』の時代背景