訓読 >>>
うつつにか妹(いも)が来ませる夢(いめ)にかも我(わ)れか惑(まど)へる恋の繁(しげ)きに
要旨 >>>
実際に彼女がやってきたのか、それとも夢なのか、あるいは私が取り乱しているのか、恋の激しさのために。
鑑賞 >>>
作者未詳の「正述心緒(ありのままに思いを述べた歌)」。「うつつ」は、現実。「来ませる」は「来る」の敬語。この歌について作家の大嶽洋子は、「後世の伊勢物語の下地ではないかと思われるような物語性のある歌である。妹に対して『来ませる』などと敬語を使っているところは、伊勢物語第69段の斎宮と昔男との月夜の出来事を思わせる。夢に私が迷ったのか、それとも現実に恋人がやって来たのだろうかと複雑な現実と夢の世界の織りなす幻覚を詠っている。迷う男にとってどちらも真実の世界なのだろう」と述べています。