大和の国のこころ、万葉のこころ

不肖私がこよなく愛する『万葉集』の鑑賞blogです。

杉の野にさ躍る雉いちしろく・・・巻第19-4148~4149

訓読 >>>

4148
杉の野にさ躍(をど)る雉(きぎし)いちしろく音(ね)にしも泣かむ隠(こも)り妻(づま)かも

4149
あしひきの八(や)つ峰(を)の雉(きぎし)鳴き響(とよ)む朝明(あさけ)の霞(かすみ)見れば悲しも

 

要旨 >>>

〈4148〉杉木立の野で鳴きたてて騒いでいる雉よ、はっきりと人に知られてしまうほどに、お前は泣かずにいられない忍び妻なのか。

〈4149〉あちこちの峰々で雉が鳴き立てている明け方の霞、この霞を見ているとやたらともの悲しくなってくる。

 

鑑賞 >>>

 大伴家持の、暁に鳴く雉を聞く歌2首。4148では、妻を求めて鳴く雉を、恋に苦しむ忍び妻になぞらえて思いやっています。「さ躍る」の「さ」は、接頭語。「いちしろく」は、はっきりと。「隠り妻」は、男が人に秘密にしている妻。4149の「あしひきの」は「八つ峰」の枕詞で、山から転じています。「八つ峰」は、多くの峰。斎藤茂吉は「この歌の悲哀の情調も、恋愛などと相関した肉体に切なるものでなく、もっと天然に投入した情調であるのも、人磨などになかった一つの歌境というべき」と言っています。

 

 

『万葉集』の年表