大和の国のこころ、万葉のこころ

不肖私がこよなく愛する『万葉集』の鑑賞blogです。

妻呼ぶ声のともしくもあるを・・・巻第8-1562~1563

訓読 >>>

1562
誰(たれ)聞きつこゆ鳴き渡る雁(かり)がねの妻呼ぶ声のともしくもあるを
1563
聞きつやと妹(いも)が問はせる雁(かり)がねはまことも遠く雲隠(くもがく)るなり

 

要旨 >>>

〈1562〉どなたかお聞きでしょうか、ここから鳴き渡って行く雁の妻を呼ぶ声を。うらやましいことです。

〈1563〉あなたが鳴くのを聞いたかとお尋ねの雁は、まことにも遠く、雲の間に隠れています。

 

鑑賞 >>>

 1562は、巫部麻蘇娘子(かむなぎべのまそのおとめ:伝未詳)が、大伴家持に贈った歌。1563は、家持が返した歌。

 1562の「こゆ」は、ここから。「雁がね」は、雁。「ともしく」は、うらやましく。家持に疎遠にされていることを嘆き、雁のように妻呼ぶ声を聞かせてもらいたいとの意が込められています。1563の「問はせる」の「せ」は、尊敬の助動詞。「まことも」は、まことにも。娘子の歌に対し、ずいぶんとつれない返事になっています。

 窪田空穂はこの歌に関して、「家持はあくまでも正直な人であったが、女性に対しては相応に我儘な人だったと見え、それが歌の上に少なからず現われている。これもそれである」と評しています。