大和の国のこころ、万葉のこころ

不肖私がこよなく愛する『万葉集』の鑑賞blogです。

いつしか明けむ布勢の海の浦を・・・巻第18-4038~4042

訓読 >>>

4038
玉櫛笥(たまくしげ)いつしか明けむ布勢(ふせ)の海の浦を行きつつ玉も拾(ひり)はむ

4039
音(おと)のみに聞きて目に見ぬ布勢(ふせ)の浦を見ずは上(のぼ)らじ年は経(へ)ぬとも

4040
布勢(ふせ)の浦を行きてし見てばももしきの大宮人(おほみやひと)に語り継ぎてむ

4041
梅の花咲き散る園(その)に我(わ)れ行かむ君が使(つかひ)を片待(かたま)ちがてら

4042
藤波(ふぢなみ)の咲き行く見れば霍公鳥(ほととぎす)鳴くべき時に近づきにけり

 

要旨 >>>

〈4038〉早く夜が明けてほしい。明けたら布勢の海の浦を歩みながら、玉でも拾おう。

〈4039〉評判だけ聞いてまだ目にしたことのない布勢の浦を、見ないまま都には帰るまい、たとえ年が過ぎようと。

〈4040〉布勢の浦に出かけて見てきたら、都へ帰って大宮人たちに必ず語り継ぎましょう。

〈4041〉梅の花が咲いて散るあの美しい園に私は出かけようと思う。あの方のお誘いの使いを待ってばかりはいられない。

〈4042〉藤の花が次から次へと咲いてゆくのを見ると、いよいよホトトギスが鳴く時が近づいてきましたね。

 

鑑賞 >>>

 田辺福麻呂(たなべのさきまろ)の歌。巻第18-4032~4036からの続きで、翌日は布勢の水海(みずうみ)に遊覧しようと約束して、思いを述べて作った歌。「布勢の水海」は、富山県氷見市南方にあった湖。4038の「玉櫛笥」は「明け」の枕詞。「玉」は、美しい小石、貝。4039の「音」は、噂、評判。4040の「ももしきの」は「大宮人」の枕詞。「大宮人」は、宮中に仕える人。4041は巻第10-1900にあり、詞書にいう古歌。4042の「霍公鳥鳴くべき時」は、陰暦の4月を指します。