大和の国のこころ、万葉のこころ

不肖私がこよなく愛する『万葉集』の鑑賞blogです。

霍公鳥 飼ひ通せらば・・・巻第19-4180~4183

訓読 >>>

4180
春過ぎて 夏来向へば あしひきの 山呼び響(とよ)め さ夜中(よなか)に 鳴く霍公鳥(ほととぎす) 初声(はつこゑ)を 聞けばなつかし あやめぐさ 花橘(はなたちばな)を 貫(ぬ)き交(まじ)へ かづらくまでに 里(さと)響(とよ)め 鳴き渡れども なほし偲(しの)はゆ
4181
さ夜(よ)更けて暁月(あかときづき)に影見えて鳴く霍公鳥(ほととぎす)聞けばなつかし
4182
霍公鳥(ほととぎす)聞けども飽かず網捕(あみと)りに捕りてなつけな離(か)れず鳴くがね
4183
霍公鳥(ほととぎす)飼(か)ひ通(とほ)せらば今年(ことし)経(へ)て来向(きむか)ふ夏はまづ鳴きなむを

 

要旨 >>>

〈4180〉春過ぎて夏がやって来ると、山を響かせて真夜中に鳴くホトトギス。その初声を聞くとなつかしくてたまらない。アヤメグサや花橘を薬玉に通して髪飾りにする五月まで、里じゅうを響かせて鳴き渡っているけれども、それでも心が惹かれる。

〈4181〉夜が更けて、明け方近くの月に影を映して鳴くホトトギス、その声を聞くと懐かしい。

〈4182〉ホトトギスの鳴き声は聞いても飽きない。いっそ網で捕らえて手なずけたい、いつも傍で鳴くように。

〈4183〉ホトトギスを飼い続けることができたら、今年を過ぎて来年の夏は、真っ先に鳴くだろうに。

 

鑑賞 >>>

 題詞に「霍公鳥を感(め)づる情(こころ)に飽かずして、懐(おもひ)を述べて作る歌」とある、大伴家持の歌です。4180の「あしひきの」は「山」の枕詞。「呼び響め」は、呼び声を響かせて。「かづらく」は草木の枝を髪飾りとしてつける。4181の「暁月」は夜明けまで残る月。4182の「鳴くがね」の「がね」は目的を表す終助詞。4183の「飼ひ通せらば」は、飼い続けるならば。

 ホトトギスを詠んだ歌は『万葉集』には156首あります。初期には少ないものの後期になるにつれて増え、なかでも大伴家持は一人で65首も詠んでいます。