大和の国のこころ、万葉のこころ

不肖私がこよなく愛する『万葉集』の鑑賞blogです。

東歌(19)・・・巻第14-3496~3498

訓読 >>>

3496
橘(たちばな)の古婆(こば)の放髪(はなり)が思ふなむ心うつくしいで我(あ)れは行かな

3497
川上(かはかみ)の根白高萱(ねじろたかがや)あやにあやにさ寝(ね)さ寝てこそ言(こと)に出(で)にしか

3498
海原(うなはら)の根(ね)柔(やは)ら小菅(こすげ)あまたあれば君は忘らす我(わ)れ忘るれや

 

要旨 >>>

〈3496〉橘の古婆にいるおさげ髪の少女の、私を思っているらしい心がかわいい。さあ、今からその少女の許へ行こう。

〈3497〉川上の根の白くあらわれている高い丈の萱のように、すらりとした色白の女、無性に共寝を重ねたので、噂が立ってしまった。

〈3498〉海辺に生える根の柔らかい菅が多いので、あなたは目移りして私のことはお忘れでしょうが、私はあなたを忘れるものですか。

 

鑑賞 >>>

 3496の「橘の古婆」は地名ながら所在未詳。「放髪」は、おさげ髪の女。「思ふなむ」の「なむ」は「らむ」の東語。「いで我は行かな」の「いで」は、感動詞の「さあ」、「な」は希望。3497の上2句は「あや」を導く序詞。「あやに」は、何とも言えないほど。「さ寝さ寝て」は、何度も繰り返し寝て。「さ」は接頭語。3498の上2句は、遊行女婦の比喩。「柔ら」は若い女性の暗示。「忘らす」は「忘る」の尊敬語。