大和の国のこころ、万葉のこころ

不肖私がこよなく愛する『万葉集』の鑑賞blogです。

草枕旅行く君と知らませば・・・巻第1-69

訓読 >>>

草枕(くさまくら)旅行く君と知らませば岸の埴生(はにふ)ににほはさましを

 

要旨 >>>

旅のお方だと存じ上げていたら、岸の黄色い土であなたの衣を染めて差し上げましたのに。

 

鑑賞 >>>

 難波の遊行女婦(あそびめ)とされる清江娘子(すみのえのをとめ)が長皇子天武天皇の第4皇子)にさしあげた歌。長皇子が、持統天皇の難波行幸に従駕した際のやり取りとみられ、行幸とはいえ旅という立場からか、軽くはなやいだ歌がほかにも多く残っています。「埴生」の「埴」は、黄色または赤色の粘土で、布の染料として使われました。住吉は埴の産地として知られていました。「にほはさましを」の「にほふ」は色うるわしい意で、色うるわしくさせる。この歌には、単に衣を染めようというのではなく、神が住む神聖な土地の黄土を身につけることによって、神のご加護を得ましょうという意味が込められています。

 遊行女婦は「うかれめ」とも訓(よ)み、彼女たちは、官人たちの宴席で接待役として周旋し、華やぎを添えました。ことに任期を終え都へ戻る官人のために催された餞筵(せんえん)で、彼女たちのうたった別離の歌には、秀歌が多くあります。その生業として官人たちの枕辺にもあって、無聊をかこつ彼らの慰みにもなりました。しかし、そうした一面だけで遊行女婦を語ることはできません。彼女たちは、「言ひ継ぎ」うたい継いでいく芸謡の人たちでもありました。