大和の国のこころ、万葉のこころ

不肖私がこよなく愛する『万葉集』の鑑賞blogです。

防人の歌(40)・・・巻第20-4341

訓読 >>>

橘(たちばな)の美袁利(みをり)の里に父を置きて道の長道(ながち)は行きかてのかも

 

要旨 >>>

橘の美袁利(みおり)の里に父を残し、長い旅の道は行きかねることだ。

 

鑑賞 >>>

 駿河国の防人の歌。「橘」は地名で、静岡市清水区立花か。「美袁利の里」は、所在未詳。「行きかてぬかも」の「かてぬ」は、できない、しかねる。「かも」は、詠嘆。なお、父への思いを詠んだ歌は珍しく、防人歌のなかで、父だけをあげているのはわずかに1首、「父母」と記しているのが8首、「母父」と記しているのが3首、母だけをあげているのが10首となっています。この時代、父母健在でも、子が母とのみ住むケースはあるにせよ、母をほかにおいて父と子というケースは考えられません。この作者の場合、母親が早くに亡くなるかして、父子家庭だったと考えられています。