大和の国のこころ、万葉のこころ

不肖私がこよなく愛する『万葉集』の鑑賞blogです。

菅の根を引かば難みと・・・巻第3-414

訓読 >>>

あしひきの岩根(いはね)こごしみ菅(すが)の根を引かば難(かた)みと標(しめ)のみぞ結(ゆ)ふ

 

要旨 >>>

山の岩がごつごつしていて、そこに生えている山菅の根は、引いてもかたくて抜けないので、わが物との標縄を張っておくだけにしよう。

 

鑑賞 >>>

 大伴家持の歌。「あしひきの」は山の枕詞ですが、ここでは「山」の意に用いています。「岩根」の「根」は接尾語で、大きな岩。「こごしみ」は、ごつごつして険しいので。「引かば」の「引く」は、女性を誘って我が物とする意を含んでいます。「難みと」は、難しいので。「標」は、自身のものとする印。

 誰に贈ったというのではなく、ここにぽつんと載っている歌ですが、すぐ近くの397に、笠郎女が家持に贈った「奥山の岩本菅を根深めて結びし心忘れかねつも」という歌があるため、それとの関連を思わせるような、意味深長な歌です。決して強い印象の歌ではなく、土屋文明は、「全体の調子はのんきで、寧ろ遊戯的作歌の如く感ぜられる」と評しています。

 

 

大伴家持の歌(索引)

笠郎女の歌(索引)