大和の国のこころ、万葉のこころ

不肖私がこよなく愛する『万葉集』の鑑賞blogです。

我が形見見つつ偲はせ・・・巻第4-587

訓読 >>>

我(わ)が形見(かたみ)見つつ偲(しの)はせあらたまの年の緒(を)長く我(あ)れも思はむ

 

要旨 >>>

私の思い出の品を見ながら、私を思ってください。私もずっと長くあなたを思い続けますから。

 

鑑賞 >>>

 笠郎女大伴家持に贈った歌。「形見」は、その人の身代わりとして見る品、記念品。ここは、郎女が自身の代わりとして家持に贈った品。「偲はせ」は「偲ふ」の敬語による命令形。「あらたまの」は「年」の枕詞。「年の緒」の「緒」は、年と同じく長く続いている物であるところから添えた語。

 国文学者の窪田空穂はこの歌について「形見として贈った品に添えたもので、挨拶にすぎないものであるが、さっぱりした中に訴えの心を含ませ、落着いていて弛みのないものであって、歌才の凡ならざるを示している」と評しています。

 

窪田空穂(くぼたうつぼ)について

 窪田空穂(本名は窪田通治)は、明治10年6月生まれ、長野県出身の歌人、国文学者。東京専門学校(現早稲田大学)文学科卒業後、新聞・雑誌記者などを経て、早大文学部教授。

 雑誌『文庫』に投稿した短歌によって与謝野鉄幹に認められ、草創期の『明星』に参加。浪漫傾向から自然主義文学に影響を受け、内省的な心情の機微を詠んだ。また近代歌人としては珍しく、多くの長歌をつくり、長歌を現代的に再生させた。

 『万葉集』『古今集』『新古今集』など古典の評釈でも功績が大きく、数多くの国文学研究書がある。詩歌集に『まひる野』、歌集に『濁れる川』『土を眺めて』など。昭和42年4月没。