大和の国のこころ、万葉のこころ

不肖私がこよなく愛する『万葉集』の鑑賞blogです。

佐保河の岸のつかさの・・・巻第4-529

訓読 >>>

佐保河(さほがは)の岸のつかさの柴な刈りそね 在りつつも春し来たらば立ち隠(かく)るがね

 

要旨 >>>

佐保川の岸の上の柴は刈らないでください、春になったら隠れて恋ができるように。

 

鑑賞 >>>

 大伴坂上郎女の旋頭歌。旋頭歌は5・7・7を2回繰り返した6句からなり、上三句と下三句とで詠み手の立場がことなる場合が多くなっています。頭句(第一句)を再び旋(めぐ)らすことから、旋頭歌と呼ばれ、短歌との先後は、旋頭歌のほうが古いものとみられています。『万葉集』には約60首があり、それも大体『柿本人麻呂歌集』のものです。この歌は、郎女が、擬古の心から興味をもって作ったものとみられています。「つかさ」は、小高いところ。「柴」は、雑木。「な~そ」は、禁止。「がね」は、格助詞の「が」と、願望の終助詞の「ね」。

 なお、『万葉集』の女性歌人で、長歌・短歌・旋頭歌の3種の歌体を詠んだのは坂上郎女一人のみです。男性歌人でも、大伴家持高橋虫麻呂山上憶良だけで、『柿本人麻呂歌集』の旋頭歌の何首かを人麻呂作だとしても、極めて少数の人しか一人で3種の歌体を残していません。