大和の国のこころ、万葉のこころ

不肖私がこよなく愛する『万葉集』の鑑賞blogです。

桜花、時は過ぎねど・・・巻第10-1871

訓読 >>>

桜花(さくらばな)時は過ぎねど見る人の恋ふる盛りと今し散るらむ

 

要旨 >>>

桜の花は、まだ散る時ではないのに、愛でてくれる人がいるうちにと思って、今散ってしまうのだろうか。

 

鑑賞 >>>

 さくらの花の散り際の潔さは、古来、人々の心を打ってきました。ほかの多くの花々が色褪せてなお咲き残り、やがてボロボロになって枯れ、散っていくなかにあって、桜の花は真っ盛りのうちに惜しげもなく散っていく。そんな光景を見て、私たちは大いなる無常観に浸り、自らの生き方に重ね合わせるのであります。この世は必ず過ぎ去っていくもの。それなら、人がいちばん愛でてくれているうちに散ってしまおう、って。

 「さくら」の名前の由来については、花の咲くようすがいかにもうららかなので「さきうら」と呼び、それが「さくら」に転化したという説や、『古事記』に出てくる木花之開耶姫(このはなのさくやひめ)の「開耶(さくや)」が起源になったなど、さまざまあります。

 なお、万葉集で詠まれている桜の種類は「山桜」です。「ソメイヨシノ」は江戸末期に染井村(東京)の植木屋によって作り出された品種で、葉が出る前に花が咲き、華やかに見えることからたちまち全国に植えられ、今の桜の名所の主役となっています。

 

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