大和の国のこころ、万葉のこころ

不肖私がこよなく愛する『万葉集』の鑑賞blogです。

桜の花の散れる頃かも・・・巻第8-1458~1459

訓読 >>>

1458
屋戸(やど)にある桜の花は今もかも松風(まつかぜ)疾(いた)み土に散るらむ

1459
世の中も常にしあらねば屋戸にある桜の花の散れる頃かも

 

要旨 >>>

〈1458〉あなたのお庭の桜の花は、今頃、松風がひどく吹くので散っているでしょうね。

〈1459〉世の中も定めなきものですから、うちの庭の桜の花も今はもう散ってしまいました。

 

鑑賞 >>>

 1458は、厚見王(あつみのおおきみ)が久米女郎(くめのいらつめ)に贈った歌です。といっても、二人の関係はすでに冷えきっていたらしく、花が散るといって、暗に心変わりを示しています。一緒に見るはずのあなたの家の桜を見ることができないと残念がってはいるものの、要は、行くことがでいない、という断りの歌です。

 これに対する久米女郎の返歌(1459)は、世の中(男女関係)も定めなきものですから、うちの庭の桜の花も今はもう散ってしまいました、あなたの気持ちも変わってしまったのでしょう、と、そっけなくも意趣返しの返事となっています。

 いくら冷めた関係になったとはいえ、なおこの粋で情緒のある歌のやり取り。万葉の男女のありようは、実に素敵であります。

 

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