大和の国のこころ、万葉のこころ

不肖私がこよなく愛する『万葉集』の鑑賞blogです。

梅花の歌(5)・・・巻第5-834~839

訓読 >>>

834
梅の花今盛りなり百鳥(ももとり)の声の恋(こほ)しき春 来(きた)るらし

835
春さらば逢はむと思(も)ひし梅の花 今日(けふ)の遊びに相(あひ)見つるかも

836
梅の花 手折(たを)りかざして遊べども飽(あ)き足らぬ日は今日(けふ)にしありけり

837
春の野に鳴くや鴬(うぐひす)馴なつけむと我(わ)が家(へ)の園(その)に梅が花咲く

838
梅の花散り乱(まが)ひたる岡(をか)びには鴬(うぐひす)鳴くも春かたまけて

839
春の野に霧(きり)立ちわたり降る雪と人の見るまで梅の花散る

 

要旨 >>>

〈834〉梅の花は今が真っ盛りだ。様々な鳥のさえずる声が恋しくなる春がやって来たのだろう。

〈835〉春になったら逢えると思っていた梅の花、今日のこの宴で、皆して見ることができた。

〈836〉梅を手折って髪飾りにしていくら遊んでも、なお満ち足りない日とは、今日のこの日だったのだ。

〈837〉春の野に鳴いているウグイスを手なずけようとして、我らの家の庭に梅の花が咲いている。

〈838〉梅の花が散り乱れている岡のあたりにウグイスが鳴いている、春をひたすら待って。

〈839〉春の野に霧が立ちこめてきて、雪が降ってきたかと見間違えるほどに、梅の花が散っている。

 

鑑賞 >>>

834は、田氏肥人(でんじのこまひと)の歌。
835は、高氏義通(こうじのよしみつ)の歌。
836は、磯氏法麻(きじののりま)の歌。
837は、志氏大道(しじのおおもち)の歌。
838は、榎氏鉢麻呂(えのうじのはちまろ)の歌。
839は、田氏真上(でんじのまかみ)の歌。

 836の「今日にし」の「し」は強意。837の「馴なつけむ」は、手なずけよう。梅を擬人化しています。838の「岡び」は、岡のあたり。「かたまけて」は、ひたすら待って。