訓読 >>>
経(たて)もなく緯(ぬき)も定めず娘子(をとめ)らが織る黄葉(もみちば)に霜な降りそね
要旨 >>>
経糸もなく横糸もこしらえないで、色とりどりに娘たちが織る美しいもみじの葉に、霜よ降らないでおくれ。
鑑賞 >>>
大津皇子(おおつのみこ)の歌。紅葉を錦の布に喩えており、『懐風藻』にある皇子の漢詩の「山機霜杼、葉錦ヲ織ラム」の表現をとりいれた歌とされます。錦は金糸などを用いた華麗な文様の織物のこと。庶民にとってはなかなか手に入らない貴重品だったらしく、「錦」の文字が金扁なのは、金と同じ目方で取引されたので、このような形の文字になったといいます。本来、錦を織るには縦糸と横糸を材料とするのに、それもないまま織るという、神秘的なこととして言っており、従って、「娘子ら」を仙女らと見ています。「述志」と題された皇子の漢詩は次のようなものです。
天紙風筆画雲鶴 山機霜杼織葉錦
・・・天紙風筆(てんしふうひつ)雲鶴(うんかく)を画(えが)き、 山機霜杼(さんきそうちょ)葉錦(ようきん)を織(お)らむ。
(天の紙に風の筆で雲間を飛翔する鶴の絵を描き、山の機織り機に霜の杼をもって紅葉の錦を織りたい)