訓読 >>>
君がため手力(たぢから)疲れ織りたる衣(きぬ)ぞ 春さらばいかなる色に擢(す)りてば良けむ
要旨 >>>
あなたのために腕も疲れて織った着物です、春になったらどんな色に染めたらよいでしょう。
鑑賞 >>>
旋頭歌(5・7・7・5・7・7)の形式の歌で、機織りをしながら女が歌った労働歌謡かといわれます。「手力」は腕の力。「疲れ」は労苦を訴えるものではなく、愛する人のために骨折って織り上げた女性の楽しい気持ちを表現したものです。「春さらば」は、春になったらの意。「さる」は物が移動することを表し、遠のく場合にも近づく場合にも用いられます。春になったらこう染めようかしら、ああしようかしらという計画も、明るい希望に満ちています。
なお、「いかなる色に」の原文は「何々」で、本居宣長が「何色」の誤りだと指摘するまでは「いかにいかに」と訓読していました。これについて詩人の大岡信は、「旧訓のほうがこの若い女の胸躍らせて言う口調にふさわしいように思われ、魅力を感じる。『いかなる色に』は、論理的で、その分、心躍りそのものの表現としては『いかにいかに』に劣っているように思われる」と言っています。