大和の国のこころ、万葉のこころ

不肖私がこよなく愛する『万葉集』の鑑賞blogです。

ぬばたまの夜さり来れば・・・巻第7-1101

訓読 >>>

ぬばたまの夜さり来れば巻向(まきむく)の川音(かはと)高しも嵐(あらし)かも疾(と)き

 

要旨 >>>

暗闇の夜がやってくると、巻向川の川音が高くなった。嵐が来ているのだろうか。

 

鑑賞 >>>

 『柿本人麻呂歌集』から1首。「ぬばたまの」は「夜」の枕詞。「巻向川」は、巻向山から三輪山の北を西流し、初瀬川にそそぐ川。「嵐かも」の「かも」は、疑問の係助詞。「嵐」の原文は「荒足」で、「荒」は、本来は、始原的で霊力が強く発動している状態をあらわす言葉とされ、そういった意味がここにも感じ取られています。

 この歌について斎藤茂吉は「無理なくありのままに歌われているが、無理がないといっても、『ぬばたまの夜さるくれば』が一段、『巻向の川音高しも』が一段、共に伸々とした調べであるが、結句の『嵐かも疾き』は、強く緊(し)まって、厳密とでもいうべき語句である」と言い、「人麿を彷彿せしむるものである」とも言っています。