大和の国のこころ、万葉のこころ

不肖私がこよなく愛する『万葉集』の鑑賞blogです。

大海に島もあらなくに・・・巻第7-1089

訓読 >>>

大海(おほうみ)に島もあらなくに海原(うなばら)のたゆたふ波に立てる白雲(しらくも)

 

要旨 >>>

大海には島一つ見えないことよ、そして漂う波の上には白雲が立っている。

 

鑑賞 >>>

 伊勢従駕の折の、作者未詳歌。「大海に島もあらなくに」の「に」は、詠嘆。島もないことよ。「たゆたふ」は、揺れて定まらないさま、漂う。大和国にばかり住んでいて、雲といえば山に立つものと思っていた人の最初の驚異だったようです。斎藤茂吉はこの歌について、「調子に流動的に大きいところがあって、藤原期の人麿の歌などに感ずると同じような感じを覚える。ウナバラノ・タユタフ・ナミニあたりに、明らかにその特色が見えている。普通従駕の人でなおこの調べをなす人がいたというのは、まことに尊敬すべきことである」と述べています。