訓読 >>>
我が門(かど)の片山椿(かたやまつばき)まこと汝(な)れ我が手触れなな土に落ちもかも
要旨 >>>
わが家の門の傍らに咲く椿の花よ。まことお前は私が手を触れない間に、地面に落ちてしまうのだろうか。
鑑賞 >>>
武蔵国の防人の歌。「片山椿」は、山の傾斜地に生えている椿のことですが、ここでは夫婦の片一方を残していくことの比喩。「触れなな」は「触れずに」の方言。「地に落ちもかも」は、留守中に周囲の若い男子のものとなりはしないだろうかとの、心配の譬喩。窪田空穂は、「隠喩仕立てにしているのは、若い防人の歌としてはふさわしくないまでの技巧であるが、女との関係がら、また場合がら、気分が複雑しているので、隠喩にするよりはかなかったものと思われる。すぐれた歌である」と評しています。