大和の国のこころ、万葉のこころ

不肖私がこよなく愛する『万葉集』の鑑賞blogです。

色に出でて恋ひば・・・巻第11-2566

訓読 >>>

色に出でて恋ひば人見て知りぬべし心のうちの隠(こも)り妻はも

 

要旨 >>>

顔色に出して恋い慕ったなら、人が見咎めて知るだろう、心のうちの隠し妻のことを。

 

鑑賞 >>>

 「正述心緒(ありのままに思いを述べた歌)」。「色に出でて」は、顔色に出して。「知りぬべし」は、知ってしまうだろうの意で、「知るべし」の強調。「隠り妻」は、まだ公表できず人目を避けて隠れている妻。「隠り」は隠れて見えないものを示すことばで、葦などが茂って水面がよく見えない入江は「隠江(こもりえ)」、草木に隠れて見えない沼は「隠沼(こもりぬ)」などといいます。

 万葉時代の恋愛は自由で奔放だったと思われがちですが、今も昔もプロセスが大事であることに変わりはなく、ある段階が来てはじめて公表するものでした。恋愛といえども社会生活の一部ですから、その当時なりのルールがあったわけです。忍ぶ恋をうたう歌や、噂が立つのを極度に恐れる歌が多くみられるのはそのためで、結婚に至るまでの各段階の心情を伝えてくれる『万葉集』は、古代の結婚制度を研究する上で第一級の史料ともなっています。