大和の国のこころ、万葉のこころ

不肖私がこよなく愛する『万葉集』の鑑賞blogです。

誰れそこのわが屋戸来喚ぶ・・・巻第11-2527

訓読 >>>

誰(た)れそこのわが屋戸(やど)来(き)喚(よ)ぶたらちねの母にころはえ物思(ものも)ふわれを

 

要旨 >>>

誰なんですか? この家に来て私の名前を呼ぶのは。たった今お母さんに叱られて、物思いにふけっているというのに。

 

鑑賞 >>>

 「正述心緒(ありのままに思いを述べた歌)」。「たらちねの」は「母」の枕詞。「ころはえ」は、大声で叱られて。娘が男と今夜逢おうと母に打ち明けたものの、「あんな男はやめときなさい!」と叱られ、ちょうどその時、タイミング悪くその男がやって来たのでしょうか。この時代の日本は厳密な意味での「母系社会」ではなかったというものの、母親の地位は高く、とくに娘の結婚に母親が口出しし、婿選びをするなど、結婚決定権は父親ではなく母親にあったようです。これらの歌のほかにも、母親が娘の交際相手を管理し、時には恋の障害となる歌が数多く見られます。