大和の国のこころ、万葉のこころ

不肖私がこよなく愛する『万葉集』の鑑賞blogです。

伊香山野辺に咲きたる・・・巻第8-1532~1533

訓読 >>>

1532
草枕(くさまくら)旅ゆく人も行き触(ふ)ればにほひぬべくも咲ける萩(はぎ)かも

1533
伊香山(いかごやま)野辺(のへ)に咲きたる萩(はぎ)見れば君が家なる尾花(をばな)し思ほゆ

 

要旨 >>>

〈1532〉草を枕に旅行く人も、行きずりに触れるだけで、萩は色づくほどに咲いている。

〈1533〉伊香山の野辺に咲いている萩を見ると、君の家にある尾花が思い出されます。

 

鑑賞 >>>

 笠金村が伊香山で作った2首。「伊香山」は、滋賀県伊香郡の賎ケ岳麓。1532の「草枕」は「旅」の枕詞。「にほふ」は、色づく。1533の「尾花」は、ススキの花穂。ススキは奈良朝期には庭にも植えられたらしく、尾花を詠むのは多く奈良朝以降の歌に見られます。ススキはそれ以前から詠まれていますが、景物への美的な感覚はススキよりも尾花にいっそう顕著となっています。