大和の国のこころ、万葉のこころ

不肖私がこよなく愛する『万葉集』の鑑賞blogです。

遣新羅使人の歌(21)-3674~3675

訓読 >>>

3674
草枕(くさまくら)旅を苦しみ恋ひ居(を)れば可也(かや)の山辺(やまへ)にさを鹿(しか)鳴くも

3675
沖つ波高く立つ日に逢(あ)へりきと都の人は聞きてけむかも

 

要旨 >>>

〈3674〉旅の苦しさに故郷を恋しく思い出していると、可也の山辺で牡鹿が、妻を呼んで鳴きたてている。

〈3675〉沖の波が高く立つ、あんな恐ろしい日に遭遇したと、都の人々は聞き及んでいるであろうか。

 

鑑賞 >>>

 引津に停泊した時に、大判官の壬生使主宇太麻呂(みぶのおみうだまろ)が作った歌。「引津」は、福岡県糸島市の引津。3674の「草枕」は「旅」の枕詞。「可也の山」は、糸島市の可也の山で、その山容から筑紫富士、糸島富士などと呼ばれています。「さを鹿」の「さ」は接頭語。妻を呼ぶ鹿に自分の心を思い見ている歌です。3675の「沖つ波高く立つ日に」は、周防国海上での出来事を指しています。「聞きてけむかも」の「けむ」は過去推量。