大和の国のこころ、万葉のこころ

不肖私がこよなく愛する『万葉集』の鑑賞blogです。

都辺に君は去にしを・・・巻第12-3183~3185

訓読 >>>

3183
都辺(みやこへ)に君は去(い)にしを誰(た)が解(と)けか我(わ)が紐(ひも)の緒(を)の結(ゆ)ふ手たゆきも

3184
草枕(くさまくら)旅行く君を人目(ひとめ)多み袖(そで)振らずしてあまた悔(くや)しも

3185
まそ鏡手に取り持ちて見れど飽(あ)かぬ君に後(おく)れて生(い)けりともなし

 

要旨 >>>

〈3183〉あなたは都に行ってしまったというのに、いったい誰が解こうとするのでしょう、すぐ解けてしまう私の着物の紐、この紐の緒を結び直すのがもどかしい。

〈3184〉草を枕の旅に出て行くあなたを、人目が多いので袖も振らずじまいに別れてしまい、どうしようもなく悔やまれます。

〈3185〉澄んだ鏡を手に取り持って見るように、いつまでも見飽きることのないあの方にとり残されて、生きている気もいたしません。

 

鑑賞 >>>

 「別れを悲しむ」歌。3183の「たゆき」はもどかしい、疲れてだるい意。都と地方とをつなぐ要路に、当時多くいた遊行女婦の一人の歌とみられ、心を寄せていた官人が都へ帰った後、他の多くの男に心ならずも接している嘆きをいったものとされます。3184の「草枕」は「旅」の枕詞。「人目多み」は、人目が多いので。「あまた」は、甚だ、非常に、どうしようもなく。3185の上2句は「見れど」を導く序詞。「まそ鏡」は、きれいに澄んではっきり映る鏡。「後れて」は、後に残されて。

 

 

万葉歌の英訳

  • 春過ぎて夏来るらし白たへの衣干したり天の香具山(巻第1-28 持統天皇
    Spring has passed, and summer's white robes air on the slopes of fragrant Mount Kagu-beloved of the gods.
  • わが園に梅の花散るひさかたの天より雪の流れ来るかも(巻第5-822 大伴旅人
    Plum-blossoms scatter on my garden floor. Are they snow-flakes whirling down from the sky?
  • 世のなかを憂しとやさしと思へども飛び立ちかねつ鳥にしあらねば(巻第5-893 山上憶良
    In this sad world I feel small and miserable, but I cannot fly away as I am not a bird.
  • 天の海に雲の波立ち月の船星の林に漕ぎ隠る見ゆ(巻第7-1068 『柿本人麻呂歌集』)
    Cloud waves rise in the sea of heaven. The moon is a boat that rows till it hides in a wood of stars.
  • 海原の沖辺に灯し漁る火は明かして灯せ大和島見む(巻第15-3648 遣新羅使
    In the shoals of the vast sea brighten the lights the fishermen use for fishing, as I so long to see the Yamato mountains of my home.
  • 新しき年の始の初春の今日降る雪のいや重け吉事(巻第20-4516 大伴家持
    On this New Year's Day which falls on the first day of spring, like the snow that also falls today, may all good things pile up and up without pause or end.
 翻訳者:ピーター・マクミラン