訓読 >>>
372
春日(はるひ)を 春日(かすが)の山の 高座(たかくら)の 三笠(みかさ)の山に 朝去らず 雲居(くもゐ)たなびき 容鳥(かほどり)の 間(ま)なくしば鳴く 雲居(くもゐ)なす 心いさよひ その鳥の 片恋(かたこひ)のみに 昼はも 日のことごと 夜(よる)はも 夜(よ)のことごと 立ちて居(ゐ)て 思ひそ我(わ)がする 逢はぬ児(こ)ゆゑに
373
高座(たかくら)の三笠(みかさ)の山に鳴く鳥の止(や)めば継(つ)がるる恋もするかも
要旨 >>>
372
春日の山の三笠の山には毎朝雲がたなびき、カッコウが絶え間なく鳴いている。そのたなびく雲のように心が晴れやらず、その鳴き続けるカッコウのように片恋に泣き、昼は一日中、夜は一晩中、そわそわと立ったり座ったりして、深い思いに沈んでいる。逢ってくれようとしないあの子ゆえに。
373
三笠の山に鳴く鳥のように、止んだかと思うとまた繰り返さずにはいられない、そんな恋を私はしている。
鑑賞 >>>
山部赤人が、春日野に登った時に作った歌です。「春日野」は奈良市の東部、春日山の麓の緩やかな台地で、今の奈良公園を含む一帯です。372の「春日を」は「春日(かすが)」の枕詞。「高座の」は「三笠」の枕詞。「容鳥」は未詳ながら、カッコウではないかとされます。373の上3句は「止めば継がるる」を導く序詞。「継がるる」の「るる」は「~せずにはいられない」の意。自分でもどうしようもない、苦しく切ない片思いを詠んでいます。