大和の国のこころ、万葉のこころ

不肖私がこよなく愛する『万葉集』の鑑賞blogです。

東歌(9)・・・巻第14-3537

訓読 >>>

柵越(くへご)しに麦(むぎ)食(は)む小馬(こうま)のはつはつに相見(あひみ)し児(こ)らしあやに愛(かな)しも

(或本の歌に曰はく)
馬柵(うませ)越し麦(むぎ)食)は)む駒(こま)のはつはつに新肌(にひはだ)触れし児(こ)ろし愛(かな)しも

 

要旨 >>>

柵越しにほんの少し麦を盗み食いする仔馬のように、わずかに関係した女だが、やたらに愛しくてならない。

(或る本の歌に曰く)
馬柵越しにほんの少し麦を盗み食いする馬のように、わずかに新肌に触れた女だが、やたらに愛しくてならない。

 

鑑賞 >>>

 上2句は「はつはつに」を導く序詞。「小馬」は男性の比喩。「はつはつに」は、ほんのわずかにの意。「相見る」は、男女が関係を結ぶこと。「児ら」は、女の愛称。「し」は、強意の助詞。「あやに」は、やたらに、何とも言いようがなく。「新肌」は、初めて男に許す女の肌。若者の、つかの間の性体験をうたった率直な歌です。

 なお、『古今集』に壬生忠岑(みぶのただみね)の「春日野の雪間を分けて生ひ出でくる草のはつかに見えし君かも」があり、「はつかに見る」ことが歌われています。また、3537の上2句までが序詞で「はつはつ」を導く表出と構造的にも通じています。この種の歌がずっとうたい継がれていたことが窺え、『万葉集』と『古今集』の世界が一続きであるのが理解できます。

 

東海道東山道旧国名比較

東海道
伊賀(三重)/伊勢(三重)/志摩(三重)/尾張(愛知)/三河(愛知)/遠江(静岡)/駿河(静岡)/伊豆(静岡・東京)/甲斐(山梨)/相模(神奈川)/武蔵(埼玉・東京・神奈川)/安房(千葉)/上総(千葉)/下総(千葉・茨城・埼玉・東京)/常陸(茨城)

東山道
近江(滋賀)/美濃(岐阜)/飛騨(岐阜)/信濃(長野)/上野(群馬)/下野(栃木)/岩代(福島)/磐城(福島・宮城)/陸前(宮城・岩手)/陸中(岩手)/羽前(山形)/羽後(秋田・山形)/陸奥(青森・秋田・岩手)