訓読 >>>
柵越(くへご)しに麦(むぎ)食(は)む小馬(こうま)のはつはつに相見(あひみ)し児(こ)らしあやに愛(かな)しも
(或本の歌に曰はく)
馬柵(うませ)越し麦(むぎ)食)は)む駒(こま)のはつはつに新肌(にひはだ)触れし児(こ)ろし愛(かな)しも
要旨 >>>
柵越しにほんの少し麦を盗み食いする仔馬のように、わずかに関係した女だが、やたらに愛しくてならない。
(或る本の歌に曰く)
馬柵越しにほんの少し麦を盗み食いする馬のように、わずかに新肌に触れた女だが、やたらに愛しくてならない。
鑑賞 >>>
上2句は「はつはつに」を導く序詞。「小馬」は男性の比喩。「はつはつに」は、ほんのわずかにの意。「相見る」は、男女が関係を結ぶこと。「児ら」は、女の愛称。「し」は、強意の助詞。「あやに」は、やたらに、何とも言いようがなく。「新肌」は、初めて男に許す女の肌。若者の、つかの間の性体験をうたった率直な歌です。
なお、『古今集』に壬生忠岑(みぶのただみね)の「春日野の雪間を分けて生ひ出でくる草のはつかに見えし君かも」があり、「はつかに見る」ことが歌われています。また、3537の上2句までが序詞で「はつはつ」を導く表出と構造的にも通じています。この種の歌がずっとうたい継がれていたことが窺え、『万葉集』と『古今集』の世界が一続きであるのが理解できます。