大和の国のこころ、万葉のこころ

不肖私がこよなく愛する『万葉集』の鑑賞blogです。

をみなへし秋萩折れれ・・・巻第8-1534

訓読 >>>

をみなへし秋萩(あきはぎ)折れれ玉桙(たまほこ)の道行きづとと乞(こ)はむ子がため

 

要旨 >>>

女郎花も秋萩も手折っておきなさい。旅のおみやげは?と言ってせがむ愛しい妻のために。

 

鑑賞 >>>

 作者の石川朝臣老夫(いしかわのあそみおきな)は、伝未詳、『万葉集』にはこの1首のみ。

 「をみなえし」は原文では「娘子部志」となっており、『万葉集』ではほかに「姫押」「姫部志」「佳人部志」などの字があてられています。この時代にはまだ「女郎花」の字は使われていませんでしたが、いずれも美しい女性を想起させるものです。「姫押」は「美人(姫)を圧倒する(押)ほど美しい」意を語源とする説もあるようです。「折れれ」は「折れり」の命令形。折っておきなさい。「玉桙の」は「道」の枕詞。「道行きづと」は、旅のみやげ。
 
 旅の帰途にあって、同行の誰かに語りかけた歌、あるいは帰途につく旅人を見送った時の歌でしょうか。その優しい心遣いと、みやげの花を受け取って喜ぶ妻の姿が思い浮かぶようです。