大和の国のこころ、万葉のこころ

不肖私がこよなく愛する『万葉集』の鑑賞blogです。

湯原王と娘子の歌(2)・・・巻第4-634~635

訓読 >>>

634
家にして見れど飽かぬを草枕(くさまくら)旅にも妻(つま)とあるが羨(とも)しさ

635
草枕(くさまくら)旅には妻(つま)は率(ゐ)たれども匣(くしげ)の内の珠(たま)をこそ思へ

 

要旨 >>>

〈634〉私の家でお逢いするときは、いつも飽き足らずにお別れしますのに、あなたは旅にまで奥様とご一緒だなんて、羨ましいかぎりです。

〈635〉旅に妻を連れてはいるけれど、私の心では、大切な箱の中の珠のように、あなたを愛しいと思っているのです。

 

鑑賞 >>>

 631~633に続く、湯原王(ゆはらのおおきみ)と娘子(おとめ)の歌。634は娘子の歌で、湯原王の旅に同行している妻のことを羨んでいます。635は湯原王の歌で、妻と連れ立った旅先にあっても、愛人に向けた歌を詠んでいるというものです。「草枕」は「旅」の枕詞。「羨しさ」は、うらやましさ。635の「匣の内の珠」は深く愛する女の譬え。「匣」は櫛笥で、櫛や化粧道具を入れておく箱。

 なお、これらの歌には全く異なる解釈があり、王が旅に連れ出したのは妻ではなく娘子であり、634の「妻」は夫(つま)のこと、すなわち王を指し、娘子が「家にあって、いくら見ても飽き足らないのに、旅にまでその夫と共にいるという、この嬉しいこと」と喜んだ歌、また635は、「旅に妻(娘子のこと)を連れ出したが、私の心では、匣の中に蔵している貴重な珠だと思っている」と解するものです。こちらの解釈の方が自然であり、情味が溢れているように感じますが、如何でしょうか。

 

 

官人の位階

親王
一品~四品

諸王
一位~五位(このうち一位~三位は正・従位、四~五位は正・従一に各上・下階。合計十四階)

諸臣
一位~初位(このうち一位~三位は正・従の計六階。四位~八位は正・従に各上・下があり計二十階。初位は大初位・少初位に各上・下の計四階)

これらのうち、五位以上が貴族とされた。また官人は最下位の初位から何らかの免税が認められ、三位以上では親子3代にわたって全ての租税が免除されました。
さらに父祖の官位によって子・孫の最初の官位が決まる蔭位制度があり、たとえば一位の者の嫡出子は従五位下、庶出子および孫は正六位に最初から任命されました。