大和の国のこころ、万葉のこころ

不肖私がこよなく愛する『万葉集』の鑑賞blogです。

湯原王と娘子の歌(3)・・・巻第4-636~637

訓読 >>>

636
わが衣(ころも)形見に奉(まつ)る敷栲(しきたへ)の枕を離(さ)けず巻きてさ寝ませ

637
わが背子(せこ)が形見の衣(ころも)妻問(つまどひ)にわが身は離(さ)けじ言(こと)問はずとも

 

要旨 >>>

〈636〉私をしのぶための衣を差し上げよう。あなたの寝床の枕元に離さず身につけておやすみなさい。

〈637〉あなたをしのぶよすがの衣は、私を求められたあなただと思って、肌身離さずおきましょう。たとえ物言わぬ着物であっても。

 

鑑賞 >>>

 前記事からの続きで、636は湯原王の歌。王の妻を羨む娘子に自分の衣を与えてなだめた歌だとされますが、634・635の別解釈に従うと。王の妻の存在は関係なくなります。娘子との、かりそめの旅が終わり、その家に帰らせようとした時の歌でしょうか。「形見」は、その人の身代わりとする物。「奉る」は、差し上げる。「敷栲の」は「枕」の枕詞。

 637はそれに答えた娘子の歌。この時代、異性の相手に自分の衣を贈ったり貸したりするのは、格別に深い愛情表現でした。娘子は、我が身から離さず、共寝をしている夫のように扱うと言っています。「言問はずとも」は、物を言わなくとも。