大和の国のこころ、万葉のこころ

不肖私がこよなく愛する『万葉集』の鑑賞blogです。

成らむや君と問ひし子らはも・・・巻第11-2489

訓読 >>>

橘(たちばな)の本(もと)に我(わ)を立て下枝(しづえ)取り成(な)らむや君と問ひし子らはも

 

要旨 >>>

橘の木の下に私を向かい合って立たせて、下枝をつかみ、この橘のように私たちの仲も実るでしょうか、と問いかけたあの子だったのに。

 

鑑賞 >>>

 『柿本人麻呂歌集』から「寄物陳思(物に寄せて思いを述べた歌)」。「我を立て」を「我が立ち」と訓み、「二人で立って」と解釈する説もあります。「成らむや君」の「成る」は、橘の実が熟することと二人の恋が成就することを掛けたもの。「問ひし子らはも」の「子ら」の「ら」は、接尾語。男は女がその後どうなったのか知らないとみられ、若かったころの思い出の一コマを歌っている歌です。

 

相聞歌の表現方法

 『万葉集』における相聞歌の表現方法にはある程度の違いがあり、便宜的に3種類の分類がなされています。すなわち「正述心緒」「譬喩歌」「寄物陳思」の3種類の別で、このほかに男女の問と答の一対からなる「問答歌」があります。

正述心緒
「正(ただ)に心緒(おもひ)を述ぶる」、つまり何かに喩えたり託したりせず、直接に恋心を表白する方法。詩の六義(りくぎ)のうち、賦に相当します。

譬喩歌
物のみの表現に終始して、主題である恋心を背後に隠す方法。平安時代以後この分類名がみられなくなったのは、譬喩的表現が一般化したためとされます。

寄物陳思
「物に寄せて思ひを陳(の)ぶる」、すなわち「正述心緒」と「譬喩歌」の中間にあって、物に託しながら恋の思いを訴える形の歌。