大和の国のこころ、万葉のこころ

不肖私がこよなく愛する『万葉集』の鑑賞blogです。

夕されば君来まさむと・・・巻第11-2588

訓読 >>>

夕(ゆふ)されば君(きみ)来(き)まさむと待ちし夜(よ)のなごりぞ今も寐寝(いね)かてにする

 

要旨 >>>

夕方になると、あなたがいらっしゃるだろうとお待ちしていた夜の名残なのですね、今もなかなか寝つかれないのは。

 

鑑賞 >>>

 「正述心緒(ありのままに思いを述べた歌)」。何らかの事情で夫と別れた女の歌です。「夕されば」は、夕方になると。「今も寐寝かてにする」は、今も寝つかれないでいる。もう終わってしまった恋なのに、彼が足しげく通ってきた頃の習慣が身に沁みついてしまっているという、独り言のような、寂しいつぶやきのような歌です。窪田空穂は「鋭敏な感性と、婉曲に物をいう教養とが相俟って」いると評しています。