訓読 >>>
697
我(わ)が聞(き)きに懸(か)けてな言ひそ刈(か)り薦(こも)の乱れて思ふ君が直香(ただか)ぞ
698
春日野(かすがの)に朝(あさ)居(ゐ)る雲のしくしくに我(あ)れは恋ひ増す月に日に異(け)に
699
一瀬(ひとせ)には千(ち)たび障(さは)らひ行く水の後(のち)にも逢はむ今にあらずとも
要旨 >>>
〈697〉私の耳に聞こえよがしに言わないでください。心乱れて思っているあなたのことを。
〈698〉春日野の朝に立ちこめている雲が次第に重なってくるように、しきりに恋しさが増すばかりです。月ごとに日ごとに。
〈699〉一つの瀬が、岩や岸辺に幾度も妨げられ分かれながら流れていく水のように、後にはきっと逢えるでしょう。今でなくとも。
鑑賞 >>>
大伴像見(おおとものかたみ)の歌。大伴像見は、天平宝字8年(764年)の藤原仲麻呂の乱で功を上げ従五位下を授けられ、後に従五位上に進んだ人。『万葉集』には5首。
ここの3首はすべて女を装った恋歌になっています。697の「懸けて」は、言葉に出して。「な言ひそ」の「な~そ」は、禁止。「刈り薦の」は「乱る」の枕詞。「直香」は、その人自身、ありさま。698の上2句は「しくしくに」を導く序詞。「しくしくに」は、しきりに。「異に」は、いよいよ、ますます。699の上3句は「後に逢ふ」を導く序詞。「障らひ」は、何度も妨げられ。